インタビュー

田村響

大好きなリストをメインに据えた新譜で真価を発揮

2007年10月、パリで開催されたロン・ティボー国際コンクールで優勝を遂げた田村響は、当時20歳。18歳からザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学で研鑽を積んでいるが、それが実った成果だった。以後、世界各地で演奏し、さらなる高みを目指して勉強を続けている。

「ザルツブルクではドイツ人のクリストフ・リースケ先生に師事していますが、最初は基本的なレッスンに戻った感じでとまどいもありました。でも、先生は派手に見せたり演奏家が前面に出るのではなく、作品の内奥に迫る方法を伝授してくれるため、いまでは作品のよさをいかにしたら表現できるかを考えるようになりました」

コンクール後はさまざまな土地で演奏を行い、著名な指揮者やオーケストラとも共演。常にひとつのステージに全身全霊を傾ける彼は、全力で走ってきたため、この2年余りは「あっというまに過ぎた感じ」だという。

「僕はステージでは汗びっしょりになって演奏します。集中力が増してくるとガンガン汗が出てくる。録音のときも1曲1曲に集中して作品に入り込みました」

新譜はバッハ「イタリア協奏曲」からスタート、モーツァルトのピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付き」に進み、リストのバラード第2番と巡礼の年第2年「イタリア」より第7曲ソナタ風幻想曲「ダンテを読んで」という選曲。長年愛奏してきた得意な作品ばかりだ。

「まず大好きなリストの2作品が決まり、やはりモーツァルトは入れたいと考え、最後にバッハに到達しました。リストは自分が素直に表現でき、作品の奥に潜む精神性にも共感しています。モーツァルトはザルツブルクに住んでからより近い存在に感じるようになり、弾けば弾くほど好きになる作品です。そしてバッハは生涯にわたってもっと多くの作品を演奏していきたいと思っています。いま、勉強の中心は作曲家が作品に込めた真の意味合いをつかみとることに置いていますが、作曲家や作品が異なれば音の美しさやどんな音が必要なのかも変わってきます。それを楽譜から読み取り、何度も自分の演奏を録音して表現を深めていくようにしています」

この新譜では田村響の特徴であるゆったりとしたテンポ、じっくり作品と対峙する姿勢を聴き取ることができ、さらに内なる情熱が燃えたぎる面も伝わってくる。

「今後は国や時代や作曲家を限定せず、幅広い作品を学んでいきたい。フランス作品にも興味があり、フランス語も勉強したい。趣味はリラクゼーション。体調をベストに保つためにいろいろ試しているんですが、最近はヘッドスパに凝っています。これは効きますよ(笑)。からだ全体がリラックスし、頭がクリアになり、よーしっ、練習するぞという意欲が湧いてきます」

作品と真っ直ぐに向かい合い、真っ直ぐな演奏を聴かせる田村響。だから聴き手も真っ直ぐな気持ちで彼の演奏を聴くことができる。とりわけリストが心に深く響く。

 

『田村響 公演・リサイタル情報』2010/3/13(土)越谷コミュニティーセンター
3/17(水)愛知県芸術劇場
3/22(月・祝)足利市民プラザ
3/28(日)千葉県文化会館
http://www.hirasaoffice06.com/files/piano6tamura.htm

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年03月08日 12:39

更新: 2010年03月09日 12:43

ソース: intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)

interview & text : 伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)

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