カート・ローゼンウィンケル
ライヴ盤を引っさげていよいよトリオで来日
〈皇帝〉〈降臨〉などと仰々しい煽り文句が来日公演チラシに躍っている。「ジャズギターの新しい皇帝」。確かにそうには違いない。2010年の今、ギターという分野において、革新的でありながらもジャズの王道をゆく風情を漂わせているギタリストは、カート・ローゼンウィンケルをおいてほかにはいまい。とはいえ、その歩みは地道で慎ましやかなものでもある。
メジャーレーベルとの契約を打ち切ったのち、ステージの熱気を一発録りで収めた2枚組のライヴ盤『レメディ』を自主レーベル【WOM Music】より発売、次いでトリオ編成によるスタンダード集『リフレクションズ』も同レーベルから送り出した。〈帝王〉は、ジャズの王道がもはや獣道にしか見いだせないと悟ったかのようにインディー化する。しかし、なんの制約も妥協もないその空間のなかで、かつてないほどの熱気、力感をもって暴れまわる。カートのキャリアは、ここから新しいフェーズに入ったと言っていい。
聞けば、そもそも【Verve】との契約を打ち切るきっかけとなったのは、このライヴ盤をめぐって折り合いがつかなかったことによる。
「ボクが求めていることをレコード会社は求めていなかった。一緒にやる理由がもはやみつからなかったということなんだ」
結果生み落とされた音源に、カートは〈治癒〉ないし〈回復〉という意味の言葉をタイトルとして与えた。それはカート自身の治癒であったのかもしれないし、マーケティングに毒された〈ジャズ〉そのものの回復を意味するのかもしれない(実際は「音楽は世界を回復するもの」と語ったブライアン・ブレイドの言葉がインスピレーションだったと、国内盤の解説にはある)。
マーク・ターナー、アーロン・ゴールドバーグ、エリック・ハーランド、ジョー・マーティンというニューヨークのジャズシーンを猛者を従えて、1曲目から飛ばしまくるカートの姿には、生半可ではない気迫が漲っている。鬼気といってもいい。全8曲121分11秒。そのテンションは一瞬たりとも途切れることがない。続く作品でスタンダードに挑むにあたっても、その佇まいは(ぐっと肩の力は抜けているとはいえ)変わらない。裸一貫、ギミックなし。ジャズの過去へと大胆にわけいり、未来への扉を執拗に探し求める姿は、感動的ですらある。
「ゆくゆくはプロデュースの仕事も手掛けてみたい」とカートは言う。その心は、と問えば、「アーティストのクリエイティビティが外部の要因によって損なわれてしまわないように守ってやりたい」、と彼は答える。
とりいそぎ、カートはまず自分を守ってみせた。カートにとって守ることとは、すなわち攻めるということでもある。『レメディ』と『リフレクションズ』には、ジャズが失いつつあった真剣勝負のスゴミがある。まさに、それこそ、ジャズの王道ではないか。
『Kurt Rosenwinlkel Trio “Reflections” Japan Tour 2010』2010/3/10(水)名古屋ブルーノート
3/11(木)大阪ミスター・ケリーズ
3/12(金)モーション・ブルー・ヨコハマ
3/13(土)、14(日)新宿ピットイン
※名古屋ブルーノートでの公演以外はチケット完売
http://www.videoartsmusic.com/