インタビュー

池谷裕二(脳研究者)

音楽を通じて身体性の重要さをアピール!
──気鋭の脳科学者、池谷祐二と高嶋ちさ子によるコンピレーション・アルバム

「モーツァルトなんか古いよね」という言葉で始まったらしい、無類の音楽好きとしても知られる新進気鋭の脳科学者池谷裕二と、今や二児の母となった高嶋ちさ子との対談。そこからスタートしたというアルバムが『ベイビー・ブレイン・クラシック』だ。恐らく子供向けとカテゴライズされるだろう、否、その目的で作られたアルバムだが、侮るなかれ。大人が聴いても刺激的。

まずディスク1は「育脳篇」として、〈一応〉幼児向けのものだが、〈リズム〉に着目したアルバムだ。

「リズム認知は、音楽にかかわらず認知機能の中で特に早い初期で備わるんです。生後2日目の赤ちゃんが認識しているというデータも得られています。実は、私たちの身体はリズムだらけ。心拍もそう、呼吸も、話すことも。赤ちゃんは話せないにしても、手足を動かす。ブラーンと力を抜いて手を振ると、重さと長さに規定される固有値の振動数を持ちますよね。それがリズム。身体は自然のリズムを持っている。だからリズムは大切と私は言いたいですね」

この重要なリズムが豊富な音楽を聴かせるせることにより、さらに〈認知〉を刺激することがこのアルバムでできたらいいと語る池谷だが、さらに「脳は何のためにある?」。答えに窮していると、

「運動・行動するため。外から入ってきた感覚を自分の運動・行動に変える変換装置が脳なんです。つまり身体感覚を身体運動に変換するものなんですよ。だから身体を動かすことで脳を刺激することは正しい。そういう考え方を持つ必要があり、音楽を聴いたら頭が良くなるわけではない(笑)。リズムは身体性から来ると思っています。だから音楽を通じていかに身体性が大切かをアピールできればいいなと思ったんです。それが僕の提案であり、今回の企画に参加させていただいた理由です」

脳という宇宙に分け入るスリリングな気分を池谷は味わせてくれるが、この〈身体性〉には納得させられる。さらにディスク2は「子育て応援篇」として、子供の両親に聴いてもらおうというもの。

「僕自身がすぐに聴きたいと思う、いつも聴いていたい曲ばかりを選んでいます。疲れた時に聴いて欲しい。30秒で落ち着ける、『ゲシュタルト崩壊』。ゲシュタルト崩壊? 例えば、ある漢字一字をじっと見つめていると漢字が分解して、何の字か判らなくなるでしょ。この現象のことですが、合掌造りの宿に泊まった時、そこのご主人に囲炉裏端のお客が30秒で皆『ほっとする』と言うと聞いて、それってゲシュタルト崩壊じゃんって思った(笑)。いくらテンパっていても30秒あればゲシュタルト崩壊ができる、そんな選曲をしました」

池谷は普段も目的別に音楽を聴いていると言い、アルバムの第ニ弾、第三弾と引き出しがあるようだ。期待しよう。脳科学者池谷裕二としての講釈も実に面白く、このアルバムを通じて脳を再認識する場にもなりそうだ。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年03月11日 19:26

更新: 2010年03月11日 19:40

ソース: intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)

interview&text 山口眞子