インタビュー

渋さ知らズ

PHOTO:山下泰弘

21年目のポピュラー・アルバム?

昨年、結成から20周年を迎えた〈渋さ知らズ〉。幅広くその破天荒なサウンドを知らしめてきた彼らだが、中心人物である不破大輔はこう話す。

「こんなに続くなんて思ってもみなかったですよ(笑)。〈渋さ知らズ〉自体がコンセプトがあって続いてきたものではなくて、あっという間に人が集まってきてここまで来ちゃった。何かを目指してやってきたわけではないんで、気づいたら20年経ってたんです。やっぱり面白かったんでしょうね」

その面白さを当人に訪ねると、「複雑なコード進行があるようなものではなくて、単純に同じメロディを繰り返していく。3人でできることをあえて20人でやる、その快楽(笑)」。かつて流行った歌謡曲も愛する不破のメロディセンス。いくらフジロックのステージでライヴを重ねようとも一向にアングラ演劇臭さが抜けないアクの強さ──06年のベスト盤『渋全』および翌年のスタジオ録音盤『渋響』はメジャーから発表されたが、それがちょっとした異常事態に思えるほど、音楽シーンの〈異端〉であり続けているのが渋さ知らズである。

スタジオ盤としては3年ぶりとなる新作『渋夜旅』。10曲の収録曲中4曲はロシア映画『Suer-Vyer』のために書き下ろされたもの(映画のほうはまだ未完成だとか)、その他は舞踏の公演用と新曲で構成されている。

「今回はポピュラー・ミュージックとしてストレートにできればと思って。ポピュラー・ミュージックというのは……初めて聴くのに聴いたことがあるような気がするものだったり、リズムの面でふと引っかかるところがあるもの。自分たちがやってるのは大衆音楽だと思ってるんですけど、今までの作品でいろんなものを雑多に入れ込んできたとすれば、今回はちょっと省いてみようと」

過去作はワンテイク一発勝負の一発録り。だが、今回は何回かテイクを重ね、その都度アレンジも練り直した。そこから浮き上がってきたのは、つい鼻歌で歌いたくなるような人懐っこいメロディ。それを〈渋さ印〉と言う他はない祝祭感覚を持って鳴り響かせるわけだから、これはたまらない。人種を越えてアピールしうる大衆性が彼ら最大の武器だとすれば、今作はそれをギュッと凝縮した痛快作と言えるだろう。不破はこう言う。

「(結成当初と比べて)より面白くなってるかもしれませんね。昔よりもデタラメなこともできるようになったんで。ライヴにしてもどこに向かっていくか分からないようなところがあるし、それが面白い。僕は『そろそろ時間なくなってきたから終わろうよ』なんてやってるだけですから(笑)」

〈渋さ知らズ〉の次の10年について訪ねると「そればっかりは分からないですねぇ(笑)」と笑う不破。単純に面白さだけを原動力として活動を続けている〈渋さ知らズ〉は、やっぱり面白いのだ。

『渋夜旅 アルバム発売記念ツアー2010』
渋さ知らズ オーケストラ
4/22(木)19:00開演 渋谷クラブクアトロ
4/29(木)18:30開演 大阪 堂島リバーフォーラム  [ゲスト:黒田征太郎]
4/30(金)19:00開演 名古屋クラブクアトロ
http://plankton.co.jp/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年03月16日 19:04

更新: 2010年03月16日 19:13

ソース: intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)

interview & text : 大石始