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インタビュー

EMI MARIA 『CONTRAST』

 

最強のブライテスト・ホープがついにメジャー・デビュー! 舞台がどこであろうと、強い思いとその歌さえあれば魂は届く。彼女が歌うことで出した答えとは……

 

EMI MARIA -A6

メジャーの音がおもしろくなれば

みずからの殻を破り、新しい自分と対峙し、これまでと違う〈何か〉を表現しようとしたとき、人はこんなにも逞しくなれるものなのか。EMI MARIAのメジャー・デビュー・アルバム『CONTRAST』に宿る〈逞しさ〉からは、自身のネクスト・ステージに懸ける揺るぎない決意、覚悟が透けて見えてくる。

シンガー・ソングライターの彼女は現在22歳。パプアニューギニア人の父、日本人の母の間に生まれ、5歳で神戸に移り住むまでは、父親の生地で過ごした。R&Bに目覚めた中学時代から作詞を始め、高校に進学した頃には、「母や姉に〈バイトがんばるから買って〉とねだって(笑)」MTRなどの機材を入手、トラックメイキングをスタートした。曲を聴く時は「歌よりもトラックに耳がいくほう」だったようで、その後歌いはじめたのも「自分のトラックで歌ってくれる人がいなかったから」だという。実際に歌うことの悦びを感じはじめたのは17歳の時。みずからイヴェントのオーガナイザーに売り込み、神戸でライヴ活動を始めた頃からだそうだ。

「小さな頃から歌うことは大好きだったけど、音楽好きで耳の肥えた母に、ずっと〈下手ね~〉とか言われていて(笑)。自分では向いてないと思ってました。だけどライヴをやるようになったら思った以上にみんなが私の歌を受け入れてくれて。NAOtheLAIZAやBLさん(BACHLOGIC)、JAY'EDくん、そのシーンで活躍している周りの人たちにも凄く刺激を受けたし、それでシンガーとしてもがんばってみようかなって思ったんです」。

優美でいて力強く、エモーショナルなのにトゥー・マッチ感がない。さらりと耳に馴染んで心に浸透していくその魅力的な歌声は、天性のものであると共に、関西のアンダーグラウンドで揉まれた賜物だろう。後にSEEDAや般若らのラッパー勢をも魅了し、彼らとの客演を機に全国へ広まったEMI MARIAの歌声は、自身のファースト・ミニ・アルバム『Between the Music』を発表した2007年以降には、もはや日本のR&B界に欠かせないものとなっていった。それでもなおインディーにこだわり続けたのは、本人いわく「物凄くガンコだった」からだとか。2009年4月、メジャー契約を交わすまでの心境について彼女はこう語る。

「昔は、メジャーっていうのは、より多くの人に聴いてもらえる代わりに、自分の大事な部分をどこか削ぎ落とさなきゃいけないんだろうと思ってた。自分のやりたいことを曲げるのって、ガンコな私にはとうてい無理だし(笑)。だけど、いかに自分を曲げずにメジャー・フィールドでR&Bを表現するか。私は逆にそこをやっていくべきだと思ったんです。メジャーにおもしろい音楽が増えれば、日本の音楽界はもっと楽しくなると思うし、そこに向けて本当のR&Bのおもしろさを提示していきたくて」。

 

魂から出てくる音楽

いざメジャーの世界へ身を投じることを決意すると、自身の生み出す音楽にも変化が現れたという。いちばん変わったのは、「いままで〈絶対に無理〉ってシャットアウトしていた部分も、心にブレーキをかけずに何でもチャレンジしようと思えるようになった」こと。そのため『CONTRAST』では、「新しい自分、いろんな表情の自分」を表現することに心を傾けたそうだ。盟友のDJ NAOtheLAIZAをはじめ、AILIにBACHLOGIC、STY、UTAといった多彩な面々をプロデューサーに迎えたのも、そのひとつ。セルフ・プロデュース主体だった過去作とは一線を画す、本作らしい部分だ。

「一人でやっていると、どうも自分はこうだって決めつけてしまうところがある。人のトラックで歌うことによって別の自分が出てくることも多いから、今回はたくさん引き出してもらえたらいいなって。才能のある人が多いんだから、自分の苦手な部分は人に頼んだらいいんだって素直に考えられるようになりましたね」。

先行配信で話題を呼んだ“One Way Love”などダンサブルなアップが続く前半は、これまでミディアム路線が多かった彼女にとって、まさに新しい側面だ。

「自分ではどうしてもミッドな曲しか作れないので、こういうアッパーでポジティヴな感じはいままでにない部分ですね。私、実はネガティヴ人間なんです(笑)。だけど、去年初のワンマンをやってからとてもポジティヴになれて。私一人のためにこれだけたくさんの人が集まってくれるんだ、って思ったら凄く自信がついた。だからいま、こういう曲が歌えているんだと思います」。

『CONTRAST』とは文字通り、自分のなかの〈明暗〉を表現したことから名付けられたもの。アルバム中盤ではその〈暗〉も描かれている。愛とお金の関係について綴った“Time is Over”、あるいは〈エビバディセイホー/微妙な世界/一人よがりMusic/何がリアル?〉など辛辣な言葉を炸裂させながらも「誰かをディスってるわけじゃなく、ある意味自分への問いかけ。私はメジャーでグッド・ミュージックを提供していくっていう決意表明です」と語る“Get On My Bus ~でもIt's Alright~”など、エッジの立った曲が続く。とりわけハードな般若との“Darknessworld”(激シブなトラックはEMI MARIA本人作!)、JAY'EDとの“We Standing Strong”では、硬派なメッセージ・ソングに挑戦している。

「社会的なトピックは前から歌いたいと思ってたけど、今回ようやく。般若さんとの曲は、政治家の足の引っ張り合いをニュースで見て感じたことをベースに書きました。JAY'EDくんとは予想を裏切る意味で、あえて甘くないハード路線にしたくて。この世界で共にサヴァイヴするっていう生き残りソングを作ろう、と。この2曲は特に自分の言いたいことをハッキリ言えたっていう手応えがありますね」。

後半は、彼女本来の持ち味であるメロウな世界観へ。穏やかに揺れるトラックに、とろける歌声と甘いリリックが浮遊するラヴソング“メリーゴーランド”など、美曲の数々が感動的なクライマックスを演出する。さらけ出された心の明暗がエモーショナルに交差する全14曲──「私から出てくるのは、US産のR&Bでもなければ、日本の音楽でもなく、パプアニューギニアの音楽でもない。何にもとらわれない、ただただ自分の魂から出てくる音楽なんです」とは、まさしく。『CONTRAST』には、人生の光と影を知る魂の歌が輝いている。

 

▼関連盤を紹介。

『CONTRAST』からの先行シングルとなる“Show Me Your Love”(ビクター)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年03月24日 17:20

更新: 2010年03月24日 17:21

ソース: bounce 318号 (2010年2月25日発行)

インタヴュー・文/岡部徳枝