Nicola Conte
アートの本質を探究する旅人──ニコラ・コンテ
イタリア南部の街バーリを拠点に活動するプロデューサー / DJ / ギタリスト、ニコラ・コンテ。そんな彼のリミックス・ワークや未発表曲、そしてCD初収録ナンバーなどを2枚のディスクに凝縮した『The Modern Sound Of Nicola Conte: Versions In Jazz-Dub』が先日リリースされた。
26のトラックが並ぶ本作は、いかにして誕生したのか。まずは、その辺りの経緯を、ブルーノート東京での初演(2009年12月17日)を翌日に控え、来日していたニコラ本人に語ってもらうことにした。
「元々は、レコード会社が企画を持ち込んできて、スタートした話でね。というのも、もうすぐスケーマとの契約が切れるだろ。だから、その前に、彼らもぼくのある種の編集盤みたいなモノを出したがっていたんだよ。ぼくとしても、特に反対する理由はなかったけれど、ただ、巷に溢れているようなありきたりのベスト盤やリミックス集をリリースするのには抵抗があった。そういった考えもあって、このアルバムでは一定のスタイルを打ち出すことにしたのさ。具体例を挙げると、ココに収められているリミックス曲は、どれも『Other Directions』('04年)および『Rituals』('08年)の制作時期とほぼカブるタイミングで仕上がったモノばかりだ。もちろん、曲によってはもっとクラブ寄りだったり、フュージョンっぽかったりもするけど、それを差し引いても、依然『The Modern Sound Of Nicola Conte』には、『Other Directions』や『Rituals』と同様の音楽的方向性が備わっていると思うな」
先のニコラのコメントにも登場していたセカンド・アルバム『Other Directions』と3枚目『Rituals』は、いずれも彼のキャリアを俯瞰した際に真っ先に代表作として列挙されるべき類のモノである。何しろ、『Other Directions』を境に、 ニコラの音楽性は飛躍的に向上し、しかもそこに一種の深みさえ加味されたのだから。そうした域に達する過程において、彼に変化を促すような出来事は、果たしてあったのかどうか。ぼくのアーティストとしてのニコラに対する関心は、そもそもこの一点に注がれていた、といっても過言ではない。
「そう、あっただろうね」と彼は振り返る。
「『Jet Sounds』('99年)発表以降、ぼくは徐々にジャズに回帰していく一方で、アナログとデジタルの融合をテーマに音楽を作っていこうともしていた。そして自己の音楽性を追求するなかで、ぼくにとって重要な意味合いを持つようになったモノが、結局は〈人間〉であったり、〈ミュージシャンシップ〉といった要素だったんだよ。それから、この時期に詞を書き始めることによって、自分をさらに深く表現できる術を得たのも、大きかったな。つまり変化の理由は、形而上学的な部分に見出せるのかもしれないね」