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インタビュー

Carmen Lundy

ジャズの伝統を踏まえつつ革新に挑む才女の大胆な試み

25年近くのキャリアを誇る実力派ジャズ・シンガー、カーメン・ランディが、約2年ぶりとなる新作のリリースを目前に来日した。3年ほど前にはジャズのニューモードを提示するquasimodeと共演を果たし、クラブ・ジャズ的な文脈でも支持されたカーメン。ディープでスピリチュアルな彼女の音楽は、古き良きジャズの伝統を踏まえながら70年代以降の前衛ジャズ作品にも通じる革新性を持ち合わせており、本人もそれを目指していると話す。そんなカーメン、新作では楽器演奏から、作・編曲、ミックス/マスタリングに至るまで、ほぼ全てをひとりでこなしている。だからなのか、アルバム・タイトルは、スペイン語などで〈only〉を意味する『Solamente』。

「〈全部私がやったの、凄いでしょう〉というわけではなくて、新作に入ってる音楽の〈本質を伝えた〉って感じね。あと、自分自身と折り合いをつけていくってこと。だから、〈only〉というより〈alone〉って感じかしら」

全てをひとりでやったというのは、実は今回の新作、録りためていたデモをそのままアルバムにしたものだったからだ。とはいえ、その完成度は恐ろしく高い。

「ミックスだけは何回もやり直したけど(笑)。今までのデモは打ち込みで作っていたんだけど、今回は自分のスタジオにコンピューターがなくて、でも逆に楽器は揃っていたから、とりあえずこれでデモを作ってみようかしらって。使ったのは8トラックのマルチ・レコーダー。ピアノだけで2トラック使ってギターが入らなかったからピアノの音を消したり……Pro Toolsの時代にこれ(笑)。コンピューターは嫌いではないけど、やっぱり私は生楽器の持つ響きが好きだし、自分の体から出てくるものと相性がいい。曲に自然の命を帯びていてほしいの。これを〈デジタル時代の平和〉って呼んでるわ(笑)」

自らオリジナル曲を書き下ろすというのもカーメンのモットー。今回も、「うんと暗い感じの冒険的なカヴァー」という有名な愛国歌《America,The Beautiful》以外は、全てカーメン自身のペンによるオリジナルだ。

「ジャズ・シンガーというのは通訳的な感じで他人の曲を解釈して伝えていくのが役割だと思われているけど……それだけで終わってしまうのは嫌なの。そもそも私は、ポップスやゴスペル、R&Bの個性も持っている。だから、私ならではの個性を出すために、スタンダードじゃなく新しい曲を作って歌っていく。自分が書いた曲だったら更に特別だし、自分だけの価値が表れると思って」

画家でもあるカーメンは、今作のアルバム・ジャケットで自身が描いた油絵を採用している。これもずっと前に描いていた絵の中から引っ張り出してきたという。

「今回は全てがそんな感じね(笑)。けど、こういう作り方はもうしないわ。次に作ったデモはデモ止まり(笑)」

でも、そんなユルさが彼女の音楽を温かなものにしていることもまた確か。こんなデモならいつでも大歓迎だ。

PHOTO: 米田泰久  /提供:コットンクラブ

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年03月31日 22:03

更新: 2010年03月31日 22:17

ソース: intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)

interview & text : 林剛