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インタビュー

Patrick Bruel

人気俳優にして脱アイドル歌手の、複雑な色香

04、08年に映画祭で来日。歌は初披露とあって、胸躍らせるスター。在日フランス商工会議所主催のガラ・パーティーと、特殊なお披露目ではあったが。

79年のスクリーン・デビュー。81年、歌手活動でも順風満帆のスタートを切った。本国で〈ブリュエル・マニア〉と称される熱狂的信奉者さえ擁す、人気シンガー・ソングライター。ロック寄りのバンド編成で色っぽくハスキーな歌声を響かせてきたが、最新DVDを拝む限り、弾き語りが中心。今回同行するサポート・ギタリストのチェルミンスキは、ポーランド系米国人を両親に持つフランス人とか。

「最近はソロでシンプルに、親密なライヴを展開している。次は大編成で歌う予定だが。一部に悲鳴をあげる女性もいるが、同世代のファンがともに成長し、今や子や孫連れで楽しんでくれている。男の子のファンも多いよ。私はポーカーのチャンピオンだから、少年たちの憧れの的にもなっているようだ」

10歳で歌の才能を諭され、教師の進言でコンセルヴァトワールに学び、15歳でギターを手にした。

「曲づくりは、失恋がきっかけ。インスピレーションとは、不幸な時にこそ湧き出すものだからね」

一番の音楽的な影響は?と問えば、「ジャック・ブレル!」ときっぱり断言。「後にビートルズとローリング・ストーンズに感化された」と補足する。

02年の異色作『アントゥル=ドゥー』は、成長した元アイドル歌手の放つ、洒脱な名シャンソン集。

「タイトル〈二つの間〉とは、前作と次作の間の意、両大戦の間を示唆している。加えて、オフィシャルでない別の意味もある。02年の大統領選で、第1回投票の結果、極右ルペンとシラクが最終決戦に残った。第2回投票を前にTV出演した際、私は本作を掲げ、両大戦間の1930年代、かくも芸術に溢れた豊穣の時代をぜひ思い出してくれ、と唱えたんだ」

つまり、ルペン票を投じる偏狭な者への批判。

「当時アルバムに収めた名曲群は、人々から忘れられかけていた。国民的な優れた歌を掘り起こしたい気持ちに駆られ、録音した。結果、20代の若者たちが楽曲を再評価してくれ、実にやり甲斐があった」

俳優と歌手、二つの顔をポジティヴに使い分ける彼は、59年アルジェリア生まれ。幼い頃に渡仏した。デビュー作から最新作までの5本で良好な関係を築くアレクサンドル・アルカディ監督とは、共通のルーツを持つ。

「監督は映画における私の父親。私は監督の代弁者だろう」とも語る。が、故郷の記憶はまったくないと言い、話題を避けた。仏国籍を与えられたがゆえに祖国を追われ、仏文化に同化せんと努めてきたアルジェリア系ユダヤ人。彼もまた母のため、シャンソンやロックを強く愛したのだろう。甘美なラヴソングのふとした翳り……そこが魅力。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年04月19日 16:28

更新: 2010年04月19日 16:36

ソース: intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)

interview & text : 佐藤由美