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インタビュー

小林愛美

日本を元気にしてくれる若き逸材の誕生

いま、Youtubeの演奏映像視聴数がクラシックの分野でダントツ1位の若きピアニストが話題を集めている。14歳の小林愛実である。彼女はひたむきに鍵盤に向かい、完全に音楽のなかに没入し、全身全霊を傾けて演奏する。その姿は一瞬たりとも目が離せなくなるもので、ほとんど目を閉じ、からだ全体を楽器に預けるようにして弾く姿に、みな驚きの表情を隠せなくなる。

小林愛実はこれまでコンクールの最年少記録を次々に塗り替えてきた。すでにパリ、ニューヨーク、モスクワ、ワルシャワ等でも演奏し、高い評価を得ている。新譜は愛してやまないバッハ、ベートーヴェン、ショパンの作品を2008年6月にニューヨークで録音したもの。特に《ワルトシュタイン》が新鮮な響きで迫ってくる。

「ベートーヴェンのこのソナタはすごく難しいけど、弾くたびに好きになる。一番好きなのは第1楽章。最初の8分音符の刻みからベートーヴェンのすばらしい世界にスッと入っていける感じがします。第3楽章もスピード感あふれ、華やかでフィナーレまで一気に突っ走ることができるので魅了されます。でも、この曲はいつもテンポが速くなってしまい、先生に注意されてばかり(笑)」

山口県出身の彼女は3歳よりピアノを始め、数々のコンクールで優勝し、2007年より桐朋学園大学音楽学部付属〈子供のための音楽教室〉に特待生として入学。8歳から名教師として知られる二宮裕子に師事している。

「いまは4時半に学校から戻り、夕食をはさんで9時まで先生にレッスンを受けています。私は練習嫌いなのでいつも怒られてばかりいるけど、ステージで弾くのは好きなの。録音もハードだったけど、すごく楽しかった」

あっけらかんとした性格。趣味は「食べることと寝ること」。さらに「背が高くてカッコいい男の人が好き」などといって笑っているが、いったんピアノに向かうと表情が一変、集中力に満ちた演奏が展開される。

「目を閉じて弾くのは自分では意識していない。曲のなかに入ってしまうと、どんな顔をして弾いているかわからなくなる。ショパンも大好きで、自分の心が素直に表現できる気がして、もっともっと弾きたくなるの」

新譜ではショパンのスケルツォ第1番、第2番、ノクターン第20番が収録されているが、マズルカも好きで、さらに今後はバラード第1番に挑戦するという。

「バラード第1番はすごくカッコいい曲なので早く弾きたかったけど、先生にまだ早いといわれ続けてきた。ようやく今年OKが出たの。うれしくて譜読みするのが楽しみ。ステージで演奏する日が待ち遠しい」

彼女の演奏は聴いていると元気が湧いてきて前向きに物事を対処しようという気持ちになる。演奏からみずみずしいエネルギーが伝わり、自然に内なる活力が湧いてくるのがわかる。日本を元気にしてくれる、そんな若き逸材の誕生にクラシック界も活気づくに違いない。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年04月27日 19:52

更新: 2010年04月27日 19:58

ソース: intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)

interview & text : 伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)