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インタビュー

小林太郎 『Orkonpood』

 

小林太郎 -A

 

とにかく、この凄まじい熱気の噴き上がる圧倒的なヴォーカルを聴いてほしい。小林太郎、19歳。現在の日本のロック・シーンを見渡しても、これほど歌える男が何人いるか?と思わせる逸材である。TV音楽番組「THE STREET FIGHTERS」の人気イヴェント〈ストファイHジェネ祭り〉において2008年度最優秀グランプリを受賞したバンドのヴォーカリストは、この春ソロ・アーティストとしての確かな第一歩をシーンに刻む。

「BUMP OF CHICKEN、ASIAN KUNG-FU GENERATION、ELLEGARDENなどの日本のアーティストにすごい刺激を受けて、高1からバンドを始めた感じです。それから一気に洋楽にハマって、どんどん聴いていきました。基本的にヘヴィーなサウンドのリフものが好きで、曲作りは自分が聴いていた音楽からの影響は大きいと思うんですけど、何かひらめいた時はほぼ無意識で〈こうすればカッコイイかもしれない〉というのを膨らませていく感じ」。

ファースト・アルバム『Orkonpood』に収録された楽曲は普遍的な魅力を持つ分厚いヘヴィー・ロック・サウンドに、平成生まれアーティストの指針とも言える、先述の3バンドに通じるキャッチーなメロディーが加わったものだ。ヘヴィーと言っても冒頭の“ドラグスタ”はグランジやメタル、“安田さん”はアップテンポなダンス・ビート、“蛇烙”はブルージーな色が濃く出るなど、曲ごとの個性は非常に明確。大らかなバラード“美紗子ちゃん”やアコースティック・ギターを爪弾きながら独白する“スノーダンス”など、豊かなメロディーセンスを存分に発揮した曲もとても美しい。ソングライターとしての才能の大きさはあきらかだが、自分を天才だと思う?と訊くと「全然!」と屈託なく笑った。

「曲を作るのがものすごく遅くて(笑)。このアルバムも高校時代からあった素材をまとめてやっと完成した感じです。曲作りは基本的に無意識で、歌詞にしろ音にしろ感覚で〈イイ〉と思うものをそのままストレートに出してます。特に歌詞はメッセージ性があるとかこれを聴いてほしいから音楽をやっているとかではないので、自分でも上手く説明できないんですよ。“ドラグスタ”はギャングスタからの連想で、“安田さん”も“ソフィー”も感覚で付けたタイトル。“蛇烙”はリフのイメージが落ちていく感じで堕落っぽかったのと、途中でチョーキングするところが蛇みたいにうねってるから。良い意味で遊びというか感覚でしかないんですけど、でもきっと何か意味があると思うんですよ。俺の感覚で合ってると思う言葉しか使っていないので」。

話している時の自然体な佇まいやはにかんだ笑顔と、歌う時の鬼気迫るテンションとがどうにも結び付かず、そのギャップのおもしろさがさらに興味を掻き立てる。曲制作については〈無意識〉〈感覚〉というが、音楽家としてリスナーを純粋に音楽で楽しませたいと語る姿勢は、すでに揺るぎない。

「エンターテイナー的なものがたぶんいちばん近いんじゃないかな。CDを聴いてくれるのもライヴに来てくれるのも、お金を払って買ってくれるものなのでプロとして楽しませたいです。僕の音楽を聴いて少しでもプラスの感情になってほしい。曲がどれだけイライラしたような感じであっても、歌詞でどんなことを歌っていても、俺は音がカッコイイとテンションが上がったりするんでそういうものを感じてくれればそれだけで嬉しいです」。

粗削りの原石だが、その原石が巨大な鉱脈の一部であることを強く予感させる。大いなる飛躍の時は遠くないだろう。

 

PROFILE/小林太郎

90年生まれ、静岡出身のシンガー・ソングライター。高校入学と同時にバンドを結成してライヴ活動を開始。作曲も始める。2008年にTV番組「THE STREET FIGHTERS」のイヴェント〈ストファイHジェネ祭り〉に小林太郎とマサカリカツイダーズのギター/ヴォーカルとして出場し、優勝を果たす。2009年に自身のソロ・プロジェクトとしてデビューが決定。2010年1月にタワレコ限定でファースト・アルバム『Orkonpood』をリリース。その後全国で数々のイヴェント出演をこなし、5月の〈ARABAKI ROCK FEST.〉をはじめ夏フェスへの参加も発表されるなど話題となる。このたびボーナス・トラックを追加した全国流通盤として『Orkonpood』(Driftwood)を再リリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年04月30日 22:30

更新: 2010年04月30日 22:38

ソース: bounce 320号 (2010年4月25日発行)

インタヴュー・文/宮本英夫