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インタビュー

映画『オーケストラ!』ラデュ・ミヘイレアニュ監督 インタヴュー

 


前作『約束の旅路』(2005)では、生き延びるために自らをユダヤ人と偽ってイスラエルへ脱出したエチオピアの少年の半生を描き、国際的な評価を高めたミヘイレアニュ監督。本作でも、ロシア・ボリショイ交響楽団の元・天才指揮者(※今は劇場清掃員の職に甘んじている)アンドレイは偽のオーケストラを率いて、パリの名門・シャトレ座に乗り込んでいく。実はこのように〈ポジティヴな嘘〉が登場人物を突き動かしていくドラマは監督の得意技で、これまでの長編4作品に共通している。「それと、アイデンティティの模索、異文化間に生じる興味深い対立…といったものが私の普遍的テーマ。加えて今回は、困難を乗り越え悲劇的な人生をユーモアで成功に変える人々を描きたかった。自信を喪失した大人たち、先の見えない不安に迷っている若い世代に夢を与える作品にしたくて」

パリではあの『THIS IS IT』を抑えてオープニングNo.1を記録した本作の主役はクラシック。「カラヤンやバーンスタインからアバドのライヴ映像、演奏家や作曲家が主人公の映画等々を観まくって研究して、大切なのは音楽家の心の動きをどう撮るかってことだと思った。指揮者の仕事は自分と共通した部分も多くて興味深かったよ」

特にラストのコンサート・シーンは圧巻で、昨年フランスにチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲ブームを巻き起こしたというのも納得。恐らく生まれて初めてこの曲を聴く観客であったとしても大興奮まちがいなしだろう。「チャイコフスキーは強弱の表現が絶妙で、ノスタルジックでスラブ系の哀愁を帯びた雰囲気とか、魅力的な要素がいっぱいだからね。あと、協奏曲を選んだのはソリストとオケとの出会い・対話によって演奏が生まれるシチュエーションが面白いと思ったから」

一方でコアなクラシック・ファンなら、見るからに怪しげな(※手にしている楽器も!)ロマのヴァイオリニストが、目の醒めるようなパガニーニのカプリースを即興で演奏してみせるようなシーンにはっとさせられるかもしれない。「ちょっと野蛮なエネルギーから高貴な音楽が生まれたりするのがいいでしょ(笑)。それと、音楽の持つ多様性みたいなものを楽しんでもらえたら嬉しい」

1958年ブカレストに生まれ、80年にチャウシェスク独裁政権下のルーマニアから亡命した過去を持つ監督。本作には、プレジネフ時代のソ連で(監督と同じ)ユダヤ系に対する弾圧があった史実が下敷きにあることにも注目。「ただ、私が興味あるのはいつも〈政治〉ではなくて人間なんだけどね。次回作はアラビア圏で撮るつもり」

3月に先行上映された〈フランス映画祭2010〉では観客賞に輝いており、日本でも大ヒットの予感。「誰もが心の中に既に音楽を持っている…それがみつかるはずさ」

『映画『オーケストラ!』

監督・脚本:ラデュ・ミヘイレアニュ  音楽:アルマン・アマール  出演:アレクセイ・グシュコブ/メラニー・ロラン/フランソワ・ベルレアン/ドミトリー・ナザロフ/ミュウ=ミュウ/ヴァレリー・バリノフ/アンナ・カメンコヴァ  配給:ギャガ (2009年 フランス 124分)
◎4/17(月)、Bunkamuraル・シネマ、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
©2009-Les Productions du Tresor
http://www.orchestra.gaga.ne.jp

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年05月06日 12:06

更新: 2010年05月06日 12:44

ソース: intoxicate vol.85 (2010年4月20日発行)

interview & text:東端哲也