インタビュー

Jim O'Rourke

バカラックをテーマにした初のコンセプト・アルバム

バート・バカラックといえば、カーペンターズやディオンヌ・ワーウィックなどたくさんの人気アーティストたちがその楽曲を歌ってきた、アメリカン・ポップスを代表する作曲家。日本だと、筒美京平のようなイメージだろうか。そんなバカラックの楽曲だけをカヴァしたアルバムをあのジム・オルークが作ったと聞けば、一瞬違和感を覚える人も少なくないかもしれない。が、冷静に考えれば、しごくまっとう。いや、まさにジムこそがやるべき仕事という気もする。バカラックの書く曲は誰もが口ずさめる平易なメロディであっても、それを支えるハーモニーがとんでもなく複雑だったり、またアレンジも含めて楽曲全体で捉えないと本当の面白さがわからないものが多い。極めて高度な楽理やセンスに支えられた、しかし誰に対しても口あたりのまろやかな音楽なのだ。こと音楽に限らず、難しいことを難しく見せることはバカにもできるが、難しいことを簡単に見せ、しかも万人に受け入れられるようにすることは至難の業である。真の前衛性と大衆性の関係、ポップ・ミュージックにおける冒険と可能性といったことを念頭に10代から研鑽を積んできた(と僕は思う)ジムにとって、だからバカラックこそは、いつか真正面から取り組まねばならない巨峰だったのではないか。「とにかく楽曲そのものへの興味があった。彼とハル・デイヴィッドの作る歌は、砂糖と塩を混ぜているような複雑な感じがする」

そう、振り返れば既にジムは99年の『Eureka』において《Something Big》の見事なカヴァを披露していたのだった。
細野晴臣、坂田明&中原昌也、青山陽一、カヒミ・カリィ、小坂忠、サーストン・ムーア、ドナ・テイラー(現在のバカラックのユニットのシンガー)といった日米のシンガーたちを曲ごとにジムが選んで歌ってもらったのが、今回出たアルバム『All Kinds of People〜love Burt Bacharach〜 produced by Jim O'Rourke』。演奏は、ジムと盟友グレン・コッチェ(ウィルコ)、須藤俊明(元メルトバナナ、現Louds)のトリオを核に、黒田京子や藤井郷子など手ダレが固めている。曲は《雨にぬれても》や《遥かなる影》のような超有名曲から《紳士泥棒》の珍妙なサントラ曲《アフター・ザ・フォックス》のようなマニアックなものまで計11曲。

「どれも気に入ってるけど、《アフター・ザ・フォックス》の坂田明さんには特に驚いた。彼に合う曲だとは思っていたんだけど、予想以上に素晴らしいパフォーマンスで。たった5分、1テイクで終わって、さぁ飲みに行こうと言われた。完璧。やはり、インプロヴァイザーとしてのキャリアと実力が関係していると思う」

その他、ヨシミ(ボアダムズ)の楽曲解釈の斬新さを絶賛したり、小坂忠への長年の憧れを語ったりと、ジムにとってもいろいろと実り多い作品になったようだ。勿論、バカラックにも送るべきだろう。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年05月13日 20:13

更新: 2010年05月13日 20:22

interview & text : 松山晋也