Jacob Koller
ショパンに恋して〜日本在住のピアニスト・アレンジャー
気鋭のピアニスト、ジェイコブ・コーラーは、ショパンの名曲をピアノ・トリオ編成に仕上げたアルバムで、多彩な編曲の技と才能を惜しみなく披露している。
「構成的でちょっとモダンなアプローチができたんじゃないかな。アンビエントの要素がたくさんあって、全体を空間的に構成しています。自分が聴きたいのはどんな音だろうと自問しながら、原曲よりもメロディに広がりや空間、流れが感じられるように意識して編曲しました」
ショパンをはじめて弾いたのは9歳のとき。その後、大学時代にショパンのほかには何も演奏しないくらいショパンに溺れた時期があったという。
「ショパンの個性を保ちつつ、いかに自分の個性、自分の解釈を加えてユニークなものにするか。そのバランスを心がけました。すごくデリケートなバランスだよね。自己主張しすぎると原曲が見失われてしまう。編曲するときも、そのバランスをずっと意識していました」
それゆえ、編曲で一番苦労したのはアルバムのクライマックスでもある《幻想即興曲》だったという。
「いろんな着想があって、しっくりくる形をみつけようとして、何度もいろんなやり方で編曲してみたんだけど、どれもしっくりこなくて。最初のアレンジはアンビエントみたいな感じで、そのままだとちょっと退屈だったから、短編映画をつくるみたいに展開の緩急を意識してみた。バンドが途中から入って、急にムードが変わって、グルーヴィーな箇所があって、静かなメロディで終わる。即興のパートももちろんあるけど、それらの要素をひとつにまとめて、全体としてみたときに楽曲としてタイトにまとまるようにしたかった」
各楽曲の配置にも細心の注意が払われており、スリリングなバンド・アンサンブルの《エチュード第9番ヘ短調》から《幻想即興曲》にかけて、抑制した緊張と興奮、慎みある華やぎの表情がめまぐるしく移り変わっていく展開はまさに圧巻だ。
ボーナス・トラックとして収録された《イオニアン・ハープ》は、ショパンの楽曲にインスパイアされた自作曲。ピアノの旋律がつくりだす無数の音の軌跡とタイトなリズム・アレンジが効いて、ミニマルで心地よい緊張と陶酔、痺れの感覚をもたらす。「ハープのコンセプト——類似したパターンやフィーリングを取り出して編曲しようとしたら、リフのアイデアがでてきて、曲をつくれるかもしれないと思った。複数の音の層があって、ミニマルな感触のある音楽がすごく好き。オリジナル曲をつくるときは、いつも視覚的に曲をイメージしていて、映画のシーンが浮かぶような感じで作曲していくんだ」
現在は日本在住。ほかにもbrainkillerというイカしたバンドや加護亜依のジャズ・プロジェクトにも参加していて、子どもにピアノと英語を教える先生でもある。 「曲をもっとたくさんつくって、オリジナル曲のアルバムをいつかつくりたいね」と話す。