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インタビュー

INTERVIEW(2)――もう一度街に憧れよう

 

もう一度街に憧れよう

 

――土岐さんが作られてる音楽からは、やっぱりシティー・ポップ的な煌きを一貫して感じるんですよね。土岐さんのシティー・ポップ観も伺いたいと思うんですけども。

土岐「具体的なサウンドを指す言葉では全然ないんですよね。そもそもシティー・ポップといってもいろいろじゃないですか。はっぴいえんどとかが源流なのかもしれないし、ユーミンの初期の頃とかも入ってくるし、鈴木茂さんのすごくファンキーで泥臭い音楽もあるし、もちろん山下達郎さんもいらっしゃるし。共通してるのは、街に対する憧れが強い感じなのかなと。シティー・ポップって、歌詞に〈街〉って言葉がよく出てくるんですよね。そこで歌われている〈街〉って活気に溢れていて、人が集まるところのエネルギーをすごく肯定してる」

――そういうところに惹かれる。

土岐「そうですね。ここ最近の音楽ではずっと〈癒し〉のモードがありますけど、そこでは街がストレッサーとして描かれてることがすごく多いと思って。いまは不景気だし、苦しいことも多いじゃないですか。でもそこで人が集まるところをネガティヴなものとして割り切っちゃうと何も解決していかない気がしていて。〈もう一度街に憧れよう〉っていうとおこがましいですけど、でもそういう気持ちでやってますね。ひとりで楽しいことなんてできないし、みんなで何かをやるってことがすごく好きなんです。シティー・ポップの作品って、関わっているミュージシャンが結構被ってるじゃないですか。だから小さなサークルみたいなものがあって、同世代で一丸となっていろんなアルバムを作ってる気がして、そういうところもすごく好きですね」

――土岐さんの近しいところにも、NONA REEVESや矢野博康さんやキリンジといった方々がいると思うんですけど、共通項を持ちつつそれぞれの音楽を作られてる印象があるんですよね。そのへんは80年代のシティー・ポップ人脈の人たちとも重なるのかなと。

土岐「そうかもしれないですね。私たちの世代も、もともとなんかしらのアンチテーゼを持って音楽をやってる人が多いように思えて。山下達郎さんたちの音楽にしても、明るい浮ついたものに受け取られがちかもしれないけど、もっと地に足の着いたものだと思うんですよね。この前、大貫妙子さんにお会いした時に〈歌詞に街って出てきますけど、あれってどこのことなんですか? 当時、どこで飲んでらしたんですか?〉って訊いたら〈新宿のゴールデン街〉って言われて(笑)」

――六本木とか、バブリーな場所では全然なかったんですね。

土岐「だから、すごく現実的なところから夢を見てたのがシティー・ポップなんですよね。そういう姿勢に私は共感するんだろうなって。私たちの世代も決して豊かな時代に大人になったわけじゃなくて、全然夢を見れない感じの青春時代だったわけで。そこから力強い何かを発していきたいって思いはすごくあります」

――土岐さんのソロでの最初のオリジナル・アルバム『Debut』は、ジャズ的なニュアンスが強いものではありましたけど、でもいまの音に繋がるシティーな要素がすでにありましたよね。最初からこういう音をやっていこうってイメージがあったんですか?

土岐「『Debut』を出す前にスタンダード・カヴァーのアルバムを2枚出していて、そこでジャズのイメージがすごく強くなったんですよね。家でのリラックス・タイムに聴く音楽とか、そういうインドアな歌手としてソロ・デビューしちゃった。もちろんそれはひとつの面としては良いんですけど、最終的には今回みたいなアルバムを作りたいとずっと思ってたんです。自分が憧れてた、ウキウキして外に出かけたくなるようなポップスがやりたかった。でもあまりにもスタンダードなイメージが強かったので、いきなりシティー・ポップに行っちゃってもなんだかよくわからなくなる。だから『Debut』はポップスとジャズの中間になればいいと思って作りました。そこから作品ごとにポップスに寄っていこうと。だから、この次はこういうアルバムを出して、何枚先はこうやろうとか、結構計画的に考えてたんですよ」

――じゃあ、徐々に土岐さんの志向が変わって行ったというわけではないんですね。

土岐「気持ちの部分では最初から変わってないですね。もちろん、当初は自分のめざしてるものを作る術がわからなかったし、周囲の人たちに自分がやりたいことを伝える言葉を持ってなかったというのもありますけど。そういう意味では、今回はやりたいことが本当に明確になったし、やっとめざしてるものが作れたなって思います」

 

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掲載: 2010年05月19日 18:00

インタヴュー・文/澤田大輔