インタビュー

松任谷由実『ダンスのように抱き寄せたい / バトンリレー』

  

 「若い頃のようには物事が進まないと気がついた、すべての人達に聞いて欲しい」(松任谷由実)

 40枚目、ダブルA面のニュー・シングルを飾るジャケ写は、正中線で左右真っ二つに分かれた彼女自身の姿。ダブルA面、2曲の世界観を同時に表すための大胆なアイデアだが、実際にその曲を聴いて、さらに深い意味があると感じた。絶望と希望。死と再生。過去と未来。松任谷由実が新たに提示した2つの楽曲には、対極にあるこれらふたつの概念が、見事に織り込まれているのだ。

“ダンスのように抱き寄せたい”は、5月29日に公開される映画「RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語」の主題歌。ブルージーな曲調で、ちょっと重めのバラードに仕上がっている。

 

「映画の主人公に共感したんですよ。<人生の列車を乗り換える>というのは、前作のアルバム『そしてもう一度夢見るだろう』で私が発信したメッセージとリンクしているし。人生で一番大切なものは何か、真剣に考えること、そして行動に移すことは、今の大人たちに一番必要なことだと思うから」

 

“バトンリレー”は第一生命グループソングとして、この春先からTVCMに使われている。ふつうの家族の当たり前の風景なのに、軽やかなテンポのバラードがまるで魔術のようにそれを、綿々と続く生命のリレーに見せている。

 

「意識したわけではないのに2曲とも、ちょっとシリアスな曲になりました。たぶんそれは、今の世の中がそれを求めているから、だと思う。私にとっても、新しい領域になったような気がします」

 

さらにこのCD、新たなコンテンツとして、タイアップした映画とCMから、スピンオフした物語が吹き込まれている。ちょっと泣けて、元気になれる、嬉しいプレゼントだ。

 

 「若い頃のようには物事が進まないと気がついた、すべての人達に聞いて欲しい。人生も、命も、まだまだ続いていくんですから」

■ PROFILE…松任谷由実(まつとうや ゆみ)

東京都生まれ。1972年多摩美術大学在学中、シングル「返事はいらない」で旧姓荒井由実としてデビュー。76年、松任谷正隆氏と結婚し、松任谷由実に。オリジナル・アルバム35枚リリース。シングルは本作で40枚目となる。

 
記事内容:TOWER 2010/5/20号より掲載

カテゴリ : HOT PICKS

掲載: 2010年05月19日 00:00

更新: 2010年05月19日 11:08

ソース: 2010/05/20

MAYU OKAMOTO