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インタビュー

DAD MOM GOD 『Poems like the Gun』

 

 

かつて在籍した東京スカパラダイスオーケストラにおいて冷牟田竜之は、本来のパートであるアルト・サックスとギターの他に〈Agitate-man〉という肩書きを持っていた。それはライヴの現場でオーディエンスを煽動するという意味でもあり、また長い歴史を持つ大所帯バンドのなかで、彼が常に新たな刺激を与え続ける存在であったことも表している。そんな彼がスカパラを脱退したことは意外であり、衝撃的だった。

「2008年の脱退から遡って4年半ぐらい、実はずっと鬱症状に苦しんでいて。同時に以前事故で大怪我した左脚の状態も悪化していた。これは一度時間を取って、身体的にも精神的にもタフな状態に持って行きたいなっていうのがあってバンドを離れた」(冷牟田竜之:以下同)。

脱退後、ふたたび激しい鬱状態に陥った彼は、一時は楽器すら触らない時期もあったという。脚の再手術後、身体とメンタルのリハビリテーションに専念し、再度音楽活動への意欲が持てるところまで回復。そこで新たに始動させたソロ・プロジェクトがDAD MOM GODだった。池畑潤二(ROCK'N'ROLL GYPSIES)、ウエノコウジ(the HIATUS)、タブゾンビ(SOIL & "PIMP" SESSIONS)、中村達也(LOSALIOS、FRICTION)ら冷牟田とかねてから親交のあるミュージシャンたちが集うなか、異彩を放っているのがEGO-WRAPPIN'のギタリスト、森 雅樹。

「EGO-WRAPPIN'は大好きだったし前から知ってたけど、森くんとはちゃんと話したことなかった。いわゆるロックンロールが似合うギタリストは結構思い浮かぶし、ハメ込んだとしてもあまりおもしろくないんじゃないかなって思って。森くんはジャズやオーセンティック・スカの匂いがすると思うんだけど、彼のギター・ソロはすごく色気があってそこが好きなんだよね」。

ファースト・アルバム『Poems like the Gun』はスカパラ時代の楽曲5曲を含んだ全14曲のうち、9曲がバンド・スタイルで録音されている。

「DAD MOM GODでは、まず一発録りをやりたかった。それとアナログ時代の黄金期に使われていたようなヴィンテージの機材で録りたかった──4日間だけスタジオを押さえて、最初の2日間はみんなで曲を一斉にやってみて、最後まで演奏できる状態にして、後の2日間で録音して……と思ってたけど、2日目にすべてを止めてドラマーを替えることになった。(中村)達也には急遽叩いてもらうことになったんだけど、最後1日だけ日程が合ったから、当日コンソール・ルームでデモを聴いて曲の構成を覚えてもらって、そのままレコーディングに突入して。それもこのメンバーならそれで行けるって確信があったからやれたことなんだけど。その日は4曲録って、もう1曲録ろうかとも思ったんだけど、流石に達也が放心状態になって(笑)。ライヴで速いテンポの曲をやる時なんかもそうで、ある種の極限状態から出てくるヒリヒリした感じがどうしても欲しかったんだよね。そこも一発録りにこだわった理由。演奏する人が瞬間ごとに無意識で判断したものが、音楽のなかでいちばん強いと思ってるから」。

そんな熱いセッションから生まれた曲と対をなすかのように、冷牟田個人がプログラミングを手掛けた宅録的なサウンドの楽曲もあり、そこでは自身で詞を書いたヴォーカル・ナンバーも収められている。狂気と静寂/熱情と覚醒──天国のような心地良さもどん底の苦しさも知った男が音楽の向こうに見つけた新しい光──DAD MOM GODという、あらゆる創造主に敬意を払った名をみずからのプロジェクトに冠した冷牟田竜之はいま、もう一度光に向かって歩きはじめた。

 

PROFILE/DAD MOM GOD

元東京スカパラダイスオーケストラの冷牟田竜之(アジテイター/ギター/アルト・サックス)によるソロ・プロジェクト。2009年の初夏から構想を始め、秋に池畑潤二(ドラムス)、ウエノコウジ(ベース)、森雅樹(ギター)、タブゾンビ(トランペット)、田中邦和(サックス)、青木ケイタ(バリトン・サックス)をコア・メンバーに招いて本格始動。浅井健一が主宰するレーベル=Sexy Stonesから初作のリリースが決定し、今年1月に上記のメンバーに中村達也(ドラムス)も参加してレコーディングを行う。5月の〈ARABAKI ROCK FES〉出演やライヴ・ツアーの発表も話題となるなか、ファースト・アルバム『Poems like the Gun』(Sexy Stones)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年05月20日 23:10

更新: 2010年05月20日 23:13

ソース: bounce 320号 (2010年4月25日発行)

インタビュー・文/宮内 健