こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

BRAHMAN/EGO-WRAPPIN' 『SURE SHOT』

 

どうなるのかはわからないが、とにかく物凄い可能性が秘められているに違いないと確信できるこの2組の融合。互いのパーツが折り重なって生まれる一撃――それは確実に多くの人の心を撃ち抜く最強の武器となる!

 

Brahman_EgoWrappin -A

お互いの出したいことを出せた

〈音楽とはこれほどスリリングでホットなものなのだ〉と思い知らせる瞬間を捉えた『SURE SHOT』は、2010年の最重要作になることは間違いない。BRAHMANとEGO-WRAPPIN'――混じり合うことが想像できないこの2組が、互いをリスペクトしつつ少しも遠慮せずに作り上げた奇跡のような作品だ。

そもそもは7年前、BRAHMANが自身で主催したイヴェントにEGO-WRAPPIN'を誘ったものの、ギタリスト=森雅樹の体調不良で不参加となったことに始まる。そして昨年12月に新木場スタジオ・コーストで行われた同じくBRAHMANのイヴェント〈tantrism vol.6〉で改めて参加を果たし、両バンドが共演。同じく出演していたTHA BLUE HERBも加わって、合作曲“WE ARE HERE”が初めて披露された。

「7年前の口惜しさが残っていて、〈もう1回やらしてください〉ていうのがあったんです(笑)。そしたらBRAHMANが誘ってくれはって、〈どうせやるんやったら曲、作ろうか〉ってどんどん盛り上がっていきましたね」(中納良恵/EGO-WRAPPIN')。

「俺ら、そんなに兌換性の高い音楽をやっているわけじゃないので、コラボってどちらかというと断っちゃうほうなんですけど、EGO-WRAPPIN'なら直感でおもしろいかなと。森ラッピンとウチのKOHKI(ギター)が親睦を深めるという名目の呑み会を3日3晩やって(笑)、それで出来上がったリフを元にみんなで広げていきました。自分たちの作り方もオーソドックスなものかどうかわからないのでどうなるのかなと思っていたんですけど、スタジオに入ったら全員の座る位置が決まってるみたいなところがあって、それが自然だった」(TOSHI-LOW/BRAHMAN)。

シャープなギター・リフから中納のシャウト、そして2人の歌にソリッドなビートと、スリリングに展開する“WE ARE HERE”はコラボレーションの新しい可能性すら感じさせる。もちろん歌詞も共作だ。

「よっちゃんは、やりながら言葉がどんどん出てくるのでイメージが見えてきやすいし、自分が書くべきことも決めやすい」(TOSHI-LOW)。

「せっかちなんで(笑)、突発的に決めて行きたかった。TOSHI-LOWくんが返してくれたことで私も広がるところがあったし、自分で気付かんところも的確に言ってくれたり。キャッチボールをいい感じでできましたね」(中納)。

2人とも日頃は1人でフロントを務めているが、共に歌うのはどんな気分なのだろう。

「よっちゃんがやってるのを横で観れたのが本当に良かった。自分のスタイルをいまさら直そうとは思ってないですけど、見習うべきところがあるなと素直に思ったし、自分もそういう色に合わせていくのが自然にできた」(TOSHI-LOW)。

「お互いの良いところを出し合えればいいなと思ってましたが、出したいことを出しましたねえ。バランスは考えましたけどそれが重要ではなくて。自然にやれました」(中納)。

こうして“WE ARE HERE”は順調に完成、続いて“promenade”を制作した。

「“WE ARE HERE”を作ってる時に、KOHKIと森くんのなかでは〈もう1曲こんな感じのも行こか〉みたいなのがあったっぽい」(中納)。

「〈そういう話、ギター同士は楽しいけどこっちは楽しくない〉みたいな言い方して一瞬ボツにした覚えがある(笑)。反省してます。でもやってるうちにRONZI(ドラムス)とかイタズラ心が出てきておもしろい曲になった」(TOSHI-LOW)。

 

音楽を使って表現したいものが近い

ドラマティックな話が続々と出てくるが、実際レコーディングに費やしたのはわずか2日。どちらも一発録りで即座に完成させたという。

「一発って俺たちはあまりやったことがなくて、それも新鮮だった。よっちゃんは音決めの段階からガンガン歌ってて。俺だったら絶対歌わないですよ。それを見て新鮮だったので、別のレコーディングで俺もやってみたら結構良くて。俺らは4人でやってるからやり直しが利くとか思ってる部分がある。それがEGO-WRAPPIN'の2人を見てたら、沸点が高い瞬間をパッと出すのが上手なんですね。バンドという形態じゃないから。それが見えた時、結構ドキッとした」(TOSHI-LOW)。

「私は曲作りの段階で〈やっぱりすごいバンドやな、バンドってこうなんや〉って思った。私らはバンドでもやってるけどいろんな人とやらしてもらってるから、バンドの良さに立ち返れたし、BRAHMANはキャラクターが4人共全然違うんやけど、いいバランスで。そこに私と森くんが入りたかったんでしょうね。すげえロックやし。MAKOTO(ベース)くんなんてジャズ弾いたことないっていうぐらいロックの人やから。でもロバート・ワイアットとかもそうだけど、ロックから入ってる人ってジャズやってもフォークやってもどこかロックしてて、その破壊的な部分が凄くカッコ良かったりする」(中納)。

互いの持ち味を存分に発揮し合って完成させたという2曲の流れのまま、“WE ARE HERE”のPVも一発録りで制作。ご覧になった方も驚くだろう、何と震度7で揺れる地震体験車の中で2人は歌っていたのだ。

「最後ぐらいに、ホントによっちゃんが机に挟まれて、俺が手を出して引き上げたんですけど、そこが〈手を伸ばせば~〉って歌詞とぴったり合ってて(笑)。でも自然の脅威のなかでは何もできないとよくわかりました。非常用袋買おうかと思いましたよ(笑)」(TOSHI-LOW)。

「大変やったけど一度体験したから、震度7でも歌えますよ(笑)」(中納)。

また『SURE SHOT』には互いにカヴァーし合った2曲も収められている。BRAHMANは『BEST WRAPPIN' 1996-2008』収録のジャジーな“Nervous Breakdown”をダイナミックなパンク・チューンに仕立て直し、EGO-WRAPPIN'は『Antinomy』から“Speculation”を取り上げ、硬質なロックを柔らかなアコースティック・サウンドで聴かせている。互いに何をカヴァーしたかは本作がリリースされるまで伏せており、この取材の席でも2人は探りを入れていたほどで、そんな馴れ合わない姿勢がこのコラボを魅力的にしているのだと実感させられた。

「7年前ならこんなことはできなかっただろうけど、似たものを感じていたんだと思います。やってるジャンルは違うけど音楽という表現を使ってやりたいものとかが近いんじゃないかな。人生における音楽のシェアが高い感じというのが共感できるんだと思うんですよ」(TOSHI-LOW)。

6月には東京/大阪でライヴも決定した。『SURE SHOT』は、2010年代の進むべき方向性を示していると言っても過言ではない。

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年05月23日 18:30

更新: 2010年05月23日 18:38

ソース: bounce 321号 (2010年5月25日発行)

インタヴュー・文/今井智子