藤掛正隆(EDGE)
左から:坪口昌恭、山本精一、早川岳晴、梅津和時、片山広明、藤掛正隆、勝井祐二
ジャズの柔軟性とロックのダイナミクスをもつ〈EDGE〉の「崖っぷちセッション」ライヴ
前年までに構想をかため、07年の1月にはじめた『崖っぷちセッション』は、ちょうど所属していたバンドが活動を休止した時期にあった藤掛正隆にセッションワークを通してジャズや即興のフィールドにアクセスさせる回路になっただけでなく、そこからもちかえった音楽は彼らの音楽をシャープに鍛え、音楽的な挑戦をつづけさせる動機にもなった。〈彼ら〉のひとりは藤掛正隆で、彼はZENI GEVAやナンバーナインといった、オルタナティヴ・ミュージックの土台を支えたドラマーであり、崖っぷちセッションがスタートしてすぐ渋さ知らズにも参加するようになり、もうひとりの主役である歴戦のベース奏者、早川岳晴とジャンルを横断した不定形のセッションを継続してきた。
私はさきほど主役と書いたが、この言葉はこれまでの崖っぷちセッションを見る限りただしくなく、藤掛正隆と早川岳晴はリズム隊としてアンサンブルを固定するより演奏に招いた誰かと彼らが反応し合い、音が彼らの手を離れ動くに任せることで演奏する〈場〉こそ主役と見なしてきたとおもう。リズムはそのとき空間に満ちた磁力のようにふるまい、演奏者たちを吸いつける。それはドラムとベースのよく知られた役目でもあるのだけど、ジャズやジャマイカ音楽などのリズムが形式の代名詞でもある音楽と彼らはちがう。
「(崖っぷちセッションは)バンド志向のセッションなんです。ただセッションするだけでも面白いですが、早川さんと僕で核を作ることで力のある演奏をできればいいとおもいました。演奏にとりきめはないですが、セッションを重ねるごとに僕と早川さんも(共演者から)刺激を受け、固まっていった感じです。強いビートが出せるのはそういった積み重ねがあるからだとおもっています」
藤掛正隆はそういい、今回リリースされた『EDGE (from Gakeppuchi Tour Final)』を聴くと彼らは規定の形式に収まっていないのがわかる。07年に山本精一を招いた6回目のセッションのライヴ盤『弱虫』のレコ発ツアー最終日を記録した『EDGE』には藤掛正隆と早川岳晴と山本精一のトリオに梅津和時、片山広明、勝井祐二と坪口昌恭を加えた集団即興が12曲収録されていて、内容はその顔ぶれの印象の総和ではある。
ジャズの柔軟性とロックのダイナミクスをもっている。どちらの語法もあり、それらはうねるように現れては消える。《ロールシャッハ組曲》と名づけた曲名が象徴するように彼らの音は角度を変えるだけでどのようにも聞こえ、またフレームの縁を高速で駆け抜けるスリルを楽しむようでもある。そして、あらゆる局面で演奏者の自由を担保しながら偏差を階層化し整えたのは藤掛正隆と早川岳晴のビートへの嗅覚だろう。藤掛正隆は「サニー・マレーやラシッド・アリのパルスのような即興演奏にもビートを感じる」といったのだけど、空間からビートを掴みとる彼らの反応の鋭さはジャズよりもどこかパンクを想起させもした。