こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

毛皮のマリーズ 『毛皮のマリーズ』

 

激しく、色っぽく、暑苦しく、ロマンティック――そんな愛すべきロックのヤバさを見せるバンドなんてもういないって? 何言ってんの! ここにいるじゃないですか!

 

毛皮のマリーズ

 

僕は人のためになれるんだ

毛皮のマリーズに、何が起きたのか? 2006年のCDデビュー以降、60'sガレージ・ロックやグラム・ロック、NYパンクをはじめとするロックンロールへの深い知識と愛情を活かした音作りと、毒々しく刺激的なパフォーマンスで熱烈な支持者を増やしてきた彼ら。このままアンダーグラウンドの帝王をめざして突き進むのか?……と思いきや、彼らはサッと身を翻し、メジャーへ移籍してニュー・アルバム『毛皮のマリーズ』のリリースを決断したのである。

「僕が勝手に、次はメジャーがいいと言ってたんです(笑)。なぜかというと、音楽だけをやれる環境が欲しかったから。最初の2枚のアルバムとミニ・アルバムは音楽じゃないんですよ。自分でも〈これはミュージックじゃなくてアティテュードだ〉と言っていて、それはそこで一旦終わる。その反動でまったく曲ができなくなって、3作目の『Gloomy』は自分自身のリハビリみたいな、すごくプライヴェートな作品になった。その次に何をやろう?というと、純粋に音楽をやる以外にモチヴェーションがなかったんです」(志磨遼平、ヴォーカル:以下同)。

話は1年前の『Gloomy』リリース当時に遡る。それまでは「自分のためだけに音楽をやっていた」という志磨が「僕の人生でもっとも大きな転機」と語る、去年から今年にかけての劇的な状況の変化は、その時期に重なり合って起きたいくつかの出来事から始まったのだという。

「『Gloomy』がどんな評価を受けるか不安だったけど、タワーレコード(のインディー・チャート)で1位になった。それでようやく何かが見えはじめたと思った頃に、僕がずっと心の支えにしてきた忌野清志郎さんが亡くなった。その後、〈夏の魔物〉(AOMORI ROCK FESTIVAL)で、毛皮のマリーズにトリをやってほしいという話が来た。他にもっと大物がいるやん……と思ったけど、〈そろそろ若いバンドがやらないとダメです〉って主催者の方に言われて。そういったことが同時期に起きて、僕に何ができるのか?って考え続けて結局出た答えが、〈僕は人のためになれるんだ〉だったんですね。僕が清志郎さんの音楽を聴いていたみたいに、あの頃の僕のような人が僕の音楽を聴いてるんだということをライヴを通して見れたんですよ。それで今度は僕の番なのか、ということが状況として認識できた。僕はもう自分のためだけに音楽をやる必要はない、人のためにやればいいんだって、それが悩み続けた結論として出た答えだったんです」。

セルフ・タイトルとなったニュー・アルバムは新曲に加えてファースト・アルバム以前からあるナンバーも収録された、マリーズの個性をわかりやすく一望できる非常に風通しの良い作品だ。甘いメロディーのグラマラスなロックンロール“ボニーとクライドは今夜も夢中”で明るく幕を開け、フェイセズの影響が濃いブルージーな“DIG IT”、70年代におけるローリング・ストーンズ風の軽快な“COWGIRL”、オルガンの音色が何ともボブ・ディラン的な“悲しい男”――まるでロックンロール博覧会のように多彩かつ王道の曲調が並び、1曲ごとに細やかな音作りとミックスが施されている。特にバンド結成当初に作られた3曲――“DIG IT”“悲しい男”、そしてストーンズ“Let It Bleed”を彷彿とさせる“サンデーモーニング”あたりの素直なメロディーの良さと温かくシンプルなバンド・サウンドの組み合わせは、マリーズをラウドなガレージ系バンドと認識していたリスナーの耳には非常にフレッシュに聴こえるはずだ。

 

初めまして、毛皮のマリーズです

「これが僕らがいちばん肩肘張らないでできる音楽。いわゆる王道というやつですね。ファースト以降はわかりやすく記号化しないと人に伝わらないと思ったので、例えばイギー・ポップやMC5みたいなのはいまいないからやってやろうとか、次はジョニー・サンダース、次はビートルズだとか、そういうふうにやってきましたけど何もデフォルメしなくていいのは今回が初めてですね。とりあえずこれが住民票登録で、われわれはここを本籍としますということ。〈初めまして、毛皮のマリーズです〉というアルバムです」。

志磨が少年時代に聴いたビートルズを原点とし、思春期に聴いた90年代のJ-Popや渋谷系から遡って音楽を掘っていったという飽くなき探究心が加わることによって、レトロスペクティヴなロックンロールに新しい感性をプラスした毛皮のマリーズの音楽が生まれる。時代は彼らのようなシンプルなロック・バンドにとって決して追い風とは言えない状況だが、果たしてこの音楽がいまの時代にどんなふうに響くのか。新たなスタート地点に立つ志磨遼平は、希望だけを持って未来を語る。

「もしも僕が好きなこういう音楽をリアルタイムで好きだった年配の方からすると、〈久しぶりにいっちょやるか〉という気になってくれるだろうし、若い子にすれば〈これがロックンロールか〉と思ってくれるだろうし。例えばCBGBにはラモーンズが、キャヴァーン・クラブにはビートルズが、日本の屋根裏にはRC(サクセション)やブルーハーツと、ロックンロールの歴史が動く伝説のシーンがあったわけですけど、僕らもいまそこにいると思うんです。しかも僕はその中心人物を疑似体験できるという特等席にいる(笑)。〈ロックンロールが何かをもう1回やらかすんだ、何かをやらかすにはロックがいちばん相応しいんだ〉という人たちが多ければ多いほど毛皮のマリーズは大騒ぎになると思うし、人のためになりたいという僕の思いが正しいならば、きっといいことが起こるんじゃないかという気がします。いまは、いい予感しかしないです」。

 

▼毛皮のマリーズが参加した作品を紹介。

左から、セックス・ピストルズのトリビュート盤『P.T.A.!~ピストルズ・トリビュート・アンセム』(Vine Yard)、THE YELLOW MONKEYのトリビュート盤『THIS IS FOR YOU~THE YELLOW MONKEY TRIBUTE ALBUM』(ARIOLA JAPAN)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年06月02日 18:30

更新: 2010年06月02日 21:58

ソース: bounce 320号 (2010年4月25日発行)

インタヴュー・文/宮本英夫