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インタビュー

COMA-CHI 『Beauty or the Beast?』

 

これまで守ってきた〈こだわり〉を解き、より自由な気持ちで組み上げられたニュー・アルバムに映る〈美〉と〈強さ〉

 

アルバム『RED NAKED』でのメジャー・デビューをきっかけに、大きな注目を集めたCOMA-CHI。その後に続いたコンセプト・アルバム『LOVE ME PLEASE!』とシングル、客演の成果を経て、彼女への期待は富みに高まりを見せているが、このほど完成した新作『Beauty or the Beast?』はその期待に応え、自身の音楽をさらに大きなフィールドへと響かせるべく展開されたアルバムだ。

「『RED NAKED』の時は、ヒップホップでありたい、ヒップホップのなかでこういう立ち位置でって考えてたけど、いまはもう、自分は何やってもヒップホップ、みたいな。ヒップホップは絶対にブレない軸として自分のなかに絶対あるので、そこはもう拭おうとしても拭えない。だからこそ自由な表現をしたいなって思ったし、もっと大きい日本の音楽シーンのことを考えた」。

これまでヒップホップへと意識的に傾けられていたサウンド志向が、エレクトロ的なニュアンスやアコースティックな歌モノにまで広がっている今作の音楽性は、そんな彼女の思いの表れ。〈繋がり合うことこそが心の底から求めるものだから〉(“oneness”)とも歌うように、ブログに寄せられたファンの声や、投稿した男性ファンの名前を歌詞に盛り込むなど、リスナーとの距離をグッと近付ける試みもなされた『Beauty or the Beast?』は、自身いわく「ポジティヴな気持ちとかラヴな気持ち、元気、希望、温かさに包まれている」作品であり、みずからの隠したくなるような過去の一面も歌で披露した『RED NAKED』とは意識の面で大きな違いがある。それらすべてはメジャーでの活動を通じて芽生えた、COMA-CHIの新たな気持ちだ。

「去年一年を通じて、ファンの人たちに支えられてることを身をもって感じたんで、〈聴いてくれる人がいる〉っていうことを前提に作るっていう意識の変化もあった。『RED NAKED』の時はノンフィクションにこだわりたいっていうのがあって、そういう曲が7、8割占めていたんだけど、今回はフィクションが多くなってる。いい意味でこだわりがあんまりなくなったっていうか、〈現実のことじゃないといけない〉っていう固定観念みたいなものもなくなりました」。

さらに、ラッパーとしてもシンガーとしてもマイクを握る彼女の顔が楽曲により満遍なく振り分けられたことで、アーティストとしてのCOMA-CHIの全体像をさらに大きく光らせている。

「自分には歌とラップのふたつの顔があって、それが二面性──女らしい女性像と男勝りな女性像が共存してるような世界観に繋がってるのかなと思って。陰と陽が表裏一体になってすべて成り立ってるっていうところを伝えたかった」。

プロデューサーのUTAに「エレクトロとロックを融合したサウンドを」とみずから発注したことが曲の発端となった“STEP UP!”。アコースティック・ギターやストリングスとの絡みが温かくセンティメンタルな“Heaven”。そして、ヴァレンタインを意識したという“ギュッと抱きしめて”、AK-69を迎えたド派手なパーティー・チューン“TIME 2 PARTY”。さらには、宇宙人との恋愛をイメージしたという“spextacy~U.F.O. II~”などなど。〈ノンフィクション〉〈ヒップホップ〉というこだわりを解き、音と内容、マイクのスタイルにおいてもグッと軽やかに曲へと向かったCOMA-CHI。「自由になったぶん、イメージを膨らませて何についても消化して曲にできる」という彼女は、アルバムの制作を振り返ってこう続ける。

「がんばって作ったけど、苦しさはなかった。楽しんでやれましたし、もっと遊べるんだろうなあって」。

自画像を越えて広がっていくCOMA-CHIの〈遊び〉はこれからどんな人の輪を作っていくだろう?

 

▼COMA-CHIが参加した作品の一部を紹介。

左から、DJ Watarai『RE:MIX:ER』(Knife Edge)、三浦大知『Who's The Man』(avex trax)、RHYMESTER“ONCE AGAIN”(NEXT LEVEL/キューン)、清水翔太“君が好き”(ソニー)

 

▼『Beauty or the Beast?』に参加したアーティストの作品を紹介。

左から、AK-69の2009年作『THE CARTEL FROM STREET』(MS)、JAY'EDの2009年作『MUSICATION』(トイズファクトリー)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年06月21日 20:02

更新: 2010年06月21日 20:04

ソース: bounce 321号 (2010年5月25日発行)

文/一ノ木裕之

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