T-SQUARE
伝統を継承しつつ新たな魅力を刻んだニュー・アルバムの核心
──安藤正容、伊東たけし インタヴュー
日本のポップ・インストゥルメンタルを代表するバンドとして、30年以上にわたり音楽シーンをリードしつづけるT-SQUARE。78年のデビュー以来、その長い活動の中でフジテレビ系『F-1グランプリ』中継のテーマ《TRUTH》を始め、時代ごとの特徴や魅力はもちろんある。しかし一般的に〈敷居が高い〉と思われがちなインストに独自のポップ・フィーリングをまとわせるポリシーは一貫していて、ポップ〜ロック〜フュージョンといったカテゴリーの壁を越えて支持されている。
デビュー以来リーダーとして統率する安藤正容(g)とフロントに立つ伊東たけし(sax)の二人を軸に、河野啓三(kyd)と坂東慧(ds)の若手実力派の二人が加わりバンドとして結束する。そして通算36枚目のアルバムとして発表されたのが新作『時間旅行』だ。現在のメンバーに固まり5年。新作の仕上がりは、年齢+キャリアの違いを超越して4人が今まで以上に強く結束しながら各々の個性と持ち味を存分に発揮している。単にベテラン+若手という構図ではなく、楽曲的にも演奏面でもメンバー全員がバンドとして対等かつ有機的に結びつき、グループの伝統を受け継ぎながらも現在形のT-SQUAREサウンドを奏でる。率直に言ってサウンドの充実ぶりは洋邦のインスト・シーンを見渡しても最高の出来映えだ。アルバムの仕上がった5月上旬、安藤正容と伊東たけしに語ってもらった。
「アルバムとしての達成感はありますね。メンバー同士でわいわい言い合って作ったことはデビュー当時に近い感覚だったし。一方で、緻密に作り込むだけではなく、ハプニングを受け入れる柔軟性と、そこから生まれるものを大切にしようという空気があってね。とにかく、余計なフィルターは外して、みんなが『今やりたいこと・旬なことをしよう』という気持ちは強かった」(伊東)
そんなメンバーのスタンスとは別に具体的な進化や現場の雰囲気について尋ねてみた。
「まずスタジオで印象的だったのは坂東のドラムと、サポートで参加してもらっている(田中)晋吾のベースの音の良さですね。元々テクニックは十分にある彼らだけど、チューニングやタイミング、エンジニアリングを含めた結果として素晴らしい音なんですよ。そしてプロデューサーである(河合)マイケルの存在も大きいですね。彼はドラマーだから(元SQUAREメンバー)グルーヴを理解しているし、アイディアマンでもある。何より現場を明るくする力があるんです」(安藤)
主な楽曲を作曲者/メンバ−別に紹介しよう。T-SQUAREの王道的アップ・ナンバーでアルバムの冒頭を飾る河野啓三作による《Fantastic Story〜時間旅行〜》は疾走するビート感と安藤(g)+伊東(EWI)のユニゾンでメロディを高らかに歌うタイトル・チューン。〈T-SQUAREの頭脳〉と謳われる河野が今回書いたのは《Behind Lavender》《AiAiSa》を加えた計3曲。中でも2009年の年越しライヴで先行披露された《Behind Lavender》はバンドの新たな魅力を標榜し本作を代表する1曲と言いたい。この曲はフォーキー&ジャジーなファンク・ナンバーで、試し録りがOKテイクとなったアドリブ満載のセッション感覚あふれる仕上がりで、冒頭のギターはあえて残した安藤のチューニング音だとか。
作曲面でも非凡な才能を見せる坂東慧は交錯するリズムと旋律が心地好いミディアム・ナンバー《Morning Delight》とダイナミックな爽快チューン《Ocean Express》の2曲を提供。
伊東たけしは傑出したスムース・ジャズ曲と言えるグルーヴィーな《World Star》と「マイケル・ジャクソンに〈ありがとう〉の気持ちを込めた」という哀愁がにじむアルバム・ラストのバラード《MJ》を提供。「スケール(音階)をペラペラ吹かないように、細かな事から自分を解放して〈でっかく〉吹きたかった」という伊東の言葉どおり、この2曲はサックス奏者としての彼の決意と男気を刻みながら〈伊東ワールド〉をダイナミックに描いたものとなっている。
安藤は「今、僕の中ではブルース・ロックが旬なんです」と語ってくれたが、彼が提供したのは《A Little Way Off》《Cosmic Pancake》《Wild River》。この3曲に共通する60年代から70年代のアーシーでシンプルなアンサンブルから紡ぎ出される洗練された旨味は、その言葉の延長上のものだと感じさせる。ギタリストとしてのスタンスについては「例えばジェフ・ベックはテクニックでは決して第一人者ではないですが強烈に訴えてくるものがある。僕もバッキングだろうが16小節のソロだろうがリスナーに何か引っかかるようなものを求めています」と答えてくれた。
では現在・過去・未来を包み込む新作『時間旅行』に象徴される今日のT-SQUAREの核心とは何なのだろうか。
「メンバーがグループの伝統を理解した上で、今までよりも〈自由に〉サウンドを創っているのが面白くてね」(伊東)
7月末からスタートするコンサート・ツアーにも期待のかかる彼ら。バンドとしての鮮度と新たなる充実ぶりをぜひ体験していただきたい。
『T-SQUARE Concert Tour 2010“時間旅行”』
7/31(土)ダイアモンドホール 16:30開場 17:30開演
8/6(金)なんばHatch 18:30開場 19:00開演
8/7(金)渋谷C.C.Lemonホール 16:30開場 17:00開演
http://www.tsquare.jp