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インタビュー

福原美穂 『Music is My Life』

 

デビュー以来走り続け、ふと立ち止まった時に実感した本当に大切なもの。その思いをたっぷりの温もりを込めて届けます!

 

もしかすると、ちょっとした誤解があるのかもしれない。福原美穂のことをただ歌の上手いディーヴァ系ヴォーカリストだという誤解。確かにメジャー・デビュー前にLAの教会で歌を披露したという経験もある。実際に歌い手としての技術もあるだろう。だが、実際の彼女はあっけらかんとよく笑い、素直に自分の考えていることを話し、そういう飾り気のない自分をリリックやメロディーにそのまま直結させることができるシンガー・ソングライター。自分でカットして縫ったコットンのワンピースを大人っぽく着こなすような、そんなお茶目な女性だ。

「もちろん、何らかのプレッシャーはいつもあるんですよ。でも、今回はこれまで以上に自分の時間をちゃんと持ちたかったし、ライヴをたくさんやってきたことで、その感触をスタジオに収めたいっていう気持ちもあったんです。というのも、今回はもっと手作り感のある音にしたかったんですよね」。

ファースト・アルバム『RAINBOW』は大ヒットした。しかしそこにあぐらをかくことなく、一から自分に向き合う時間を持つようにしたのだという。デビュー後いきなりのヒットとなったからこそ、福原美穂というアーティストがどういう存在なのかをいまこそ自分でしっかり提示していく必要を感じたのだろう。そこで出来上がったのが2枚目のアルバム『Music is My Life』だ。

「インディア・アリーのライヴを観て、温かくてオーガニックな感触にすごく共感したんです。ただマイクに向かうんじゃなくて、いっしょになって演奏のグルーヴに入っていくような。そこには人としての温もりみたいなものがしっかりあったんですね。あ、これだなって。私も東京に出てきてから余計に故郷の家族と会う時間とかを大事にしていたから、その温かい気持ちを音に込めたいって思っていたんです。だからスタジオに入ってみんなで音を合わせた時も、なるべく温かい音、温かい音へと自然と向かっていきましたね」。

スライ&ザ・ファミリー・ストーン、ルーツ、コリーヌ・ベイリー・レイ、シェリル・クロウ、そして新作でデュエットも実現しているアイルランド出身の女性シンガー、ローラ・イジボア——彼女がニュー・アルバムを制作するにあたって参考にしたというフェイヴァリット・アーティストを並べると、やはりそこには共通する匂いがある。ファンキーでソウルフルでフォーキーでアーシーでヒューマンで……でも、サラリとジャンルを超越してしまうような包容力と軽やかさもある。例えばこのアルバムには地元・北海道時代から交流があったという同郷のバンド、sleepy.abとのコラボレーションで作られたナンバー“Apologies”もあるが、そこにはクロスオーヴァーを最初から目論んでいたような肩肘張った鼻息の荒さは微塵もない。

「ずっとやってみたかったんです、こういうコラボレーションって。温かい音作りをめざしているいまならしっくりとやれるかな?って思って。何か全部、自分には自然な流れなんです。そういう意味では時間はかけましたけど、すごく無理なく作れました。ただ、歌詞に関しては結構ハッキリしてて……このアルバムと前のアルバムはひとつの恋愛のことを元にして書かれているんです(笑)。相手の人はすぐわかると思いますよ。歌詞のディテールがかなり細かいから(笑)」。

と、衒いなく話してくれる彼女。また、普段から一人でひょっこりとタワーレコードなどに立ち寄ってはスタッフに声をかけるというから驚く。〈音楽こそわが人生〉と言い切る、この等身大の人懐っこさこそが今回のアルバムにそのまま出ているのかもしれない。

「でも、お店で〈すみません、福原です〉と名乗り出ると大抵引かれますけどね(笑)」。

 

▼福原美穂が参加した作品を紹介。

STUDIO APARTMENTの2010年作『2010』(Apt./NEW WORLD)

 

 

▼『Music is My Life』に参加したアーティストの作品を紹介。

左から、ローラ・イジボアの2009年作『Let The Truth Be Told』(Atlantic)、sleepy.abのニュー・シングル“君と背景”(ポニーキャニオン)

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年06月30日 15:39

更新: 2010年06月30日 15:47

ソース: bounce 322号 (2010年6月25日発行)

インタビュー・文/岡村詩野

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