パトリック・ハーラン
人気英語アニメの舞台裏
けなげで愛らしい子犬チャロが活躍する人気の英語アニメ『リトル・チャロ』。第2弾の本作では、瀕死の翔太を追いかけてチャロが迷い込む〈間の国〉を舞台に物語が展開する。英語脚本を担当しているのはご存知パックン、ことパトリック・ハーランさんだ。
「日本語の原作をもとに、英語脚本を書き上げました。一番苦労したのは、英語に直せない日本語表現。とくに、〈心残り〉という単語が何回か出てくるんですが、それをどう訳すかすごく悩みましたね」
生と死の狭間にある〈間の国〉でのチャロと翔太の冒険には、神話の要素が随所に盛り込まれ、物語としても楽しめる一方、教科書ではあまり教えてくれない日常のコミュニケーションに役立つ手軽なフレーズが満載だ。
「今回は、人間関係を深めるときに使う表現が多いです。自分の希望とか自分が怖いことを伝えたり、相手の夢や過去について尋ねたりするときに使う表現がたっぷり出てくる。でも、あんまり難しくしないで皆さんが使いやすいかたちを保つように気をつけたんですよ」
多彩なキャラクターが登場するが、それぞれの性格にあわせて喋り方にも個性が与えられている。
「チャロと翔太は、英語がそんなに上手じゃない子ども、ペンギンのムウはおちゃめなイギリス人、謎めいた犬のカノンは上品なお母さんみたいな喋り方にしています。それぞれのキャラクターのなかから、自分の憧れている英語を選んで真似すればいいかな。言語をちゃんと使えるようになるには柔軟性が必要。自分の言いたい内容をそのまま言えないなら、ギアチェンジして、べつの方法で攻めればいい。その練習になればいいですね」
パックンは日本語検定試験1級取得の日本語エキスパート。翻訳作業をとおして英語と日本語の違い、背後に横たわる文化の相違について考えたことを、「あなたは僕の友達だからね」という台詞を英訳したときのことを例に、話してくれた。
「この台詞は、あなたはいつも僕を助けてくれるから僕の友達なんだという意味で、それは〈あなた〉の気持ちなんだけど、『あなたは僕の友達だ』と言い切っても日本語だと違和感はないですよね。ところが、英語で “You are my friend.”と言うと恩着せがましいんですよ。〈あなたは僕のことを愛してくれています〉という意味になる。「なんでアンタにそんなことわかるんだ?!」と言いたくなっちゃう。だから、作品では“I'm your friend.”にしました。でも反対に、日本語で『私はあなたの友達ですよ』と言うとエラそうなんです。日本語って人の気持ちを決めつけないようにする言語だと思うけど、この場合は他の人の気持ちを言い切っちゃってる。面白いですよ」
外国語や文化を学ぶことは、普段の景色を別の角度から眺めること。それは、別の自分になる術を手に入れることでもあるのかもしれない。