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インタビュー

高良仁美

ピアノの響きから、あの沖縄の夏がこぼれ出す

ベートーヴェンやスペイン系作曲家の作品を敬愛するピアニスト・高良仁美といえば、やはり06年に、生誕100年を迎えた宮古島生まれの(日本で最初に交響曲を書いた女性作曲家)金井喜久子のピアノ曲録音でクラシック・ファンを魅了したのが記憶に新しいかもしれない。そんな彼女が沖縄の夏の風景をソロ演奏で綴ったアルバムを発表した。新進気鋭の作曲家・瑞慶覧(ずけらん)尚子による書き下ろしと編曲で構成された注目作だ。

「表現が繊細で現代的なセンスに溢れ、音楽的引き出しも多いのが瑞慶覧さんの凄いところ。ご自身もピアニストだけに、明快で万人に愛される作風です。ピアノが弾ける方が聴くと、きっと自分でも弾いてみたくなるような曲ばかりだと思います」

キラキラ光る青い波、海岸沿いの国道、眩しい太陽の下ではゴーヤーが茂りアカバナーが咲き誇る。午後には湿気を帯びた南風がけだるく吹き、夕方には激しいスコール。夜になるとどこからかエイサーの太鼓の音が…と、まるで1編の映画のサントラのような流れがイマジネーションの扉を開く。

「私も彼女と同じ沖縄人(うちなーんちゅ)なので、楽譜に込められたものが手に取るようにわかるんです。それも伝統的なリズムみたいなものだけじゃなくて、あっこれはああいう時の風の音だなとか、このメロディってあの空気の匂いを思い出すなとか。弾いていると故郷の色彩に包まれるようなかんじで…」

もちろん大和人(やまとぅんちゅ)の旅心も大いに刺激されること間違いなしだ。ただ、単なるリゾート・アイランド感満載の1枚ではなく、沖縄の背負ってきた歴史の重みに言及した曲の存在感もしっかりとある。

「《夏の墓標》では、夏のうだるような暑さの中に漂う戦争の空しさを感じてもらえると思います。神秘的な《拝(うが)んガジュマル》の演奏にも祈りの気持ちを込めました」

そんな重苦しい2曲の後に続いて有名なわらべ唄《てぃんさぐぬ花》の旋律が流れるのが何とも感動的。魂が浄化されてやさしい気持ちにしてくれるのも、沖縄人の持つ懐の深さのような気がして切なく、涙を誘う。

「瑞慶覧さんは沖縄の唄の編曲をこれまでにいくつも手がけられていますが、ここでは私のためにスペイン人のアルベニス風の素敵なアレンジを書いてくれました」

昼と夜の境に位置する幻想的な時間を意味する《アコークロー》と名付けられた曲も、まるで唱歌のような懐かしさを漂わせていて耳に心地よい。

「実は私も瑞慶覧さんも〈アコークロー〉っていう言葉を知らなかったんです(笑)。レコード会社の方に教えてもらった時、美しい言葉だなって思ったのがきっかけ」

9月にはリリース・コンサートも予定。ジャンルを越えて、全ての音楽ファンにお薦めのピアノ・アルバムだ。

『タワーレコード インストア・イヴェント決定!』
7/18(日)タワーレコード渋谷店6F  15:00〜

『沖縄・夏の風景〜高良仁美ピアノソロ〜発売記念コンサート』
9/12(日)13:30開場 14:00開演
会場:HAKUJU HALL

http://www.respect-record.co.jp

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年07月02日 18:29

更新: 2010年07月08日 12:34

ソース: intoxicate vol.86 (2010年6月20日発行)

interview & text : 東端哲也