インタビュー

映画『何も変えてはならない/Ne change rien』 ペドロ・コスタ監督 インタヴュー

ペドロ・コスタ監督 インタヴュー
「ロックを扱っている映画はいろいろあるが、まともな仕事をしたのはゴダールだけだ」

常にストイックな姿勢で映画の本質を見つめてきた映画監督、ペドロ・コスタ。最新作『何も変えてはならない』は、女優ジャンヌ・バリバールについてのドキュメンタリーだ。映画の道に進む前にロック・バンドで活動していたことはコスタを語る上で欠かせないトピックだが、今回の映画ではジャンヌのミュージシャンとしての活動を追っているのが興味深い。

「ある日彼女が電話をしてきて、『コンサートがあるから来ない?』と誘ってくれたんだ。だからカメラを持って友達として行っただけで、仕事として撮影をするつもりはなかった。それから定期的に彼女を撮影するようになり、4〜5年間撮影をした後に作品としてまとめることになったんだ。私が考えるに、そもそも映画というのは、そういう自然なものであるべきなんだよ」

 


ペドロ・コスタ監督

 

ジャンヌはこれまで2枚のアルバムをリリースしているが、彼女のミュージシャンとしての活動に対してコスタはこのうえなく誠実な態度で接している。例えば、固定したカメラによる長回しの撮影だ。コスタはスタジオやコンサートでジャンヌが歌う姿を、観客にフルコーラスでじっくりと見せて(聴かせて)いく。

「ひとつの場所に視点を固定することによって、その空間がより現実的に表現できる。カメラを動かしてしまうと、観客がジャンヌの歌よりカメラの動きに気を取られるのが嫌だったんだ。照明に関しては空間の雰囲気を出すことを大切にした。それも観客が集中してジャンヌを観ることができる雰囲気を作りたかったからなんだ」

ドキュメンタリーなのに時間や場所の説明は一切ないまま、モノクロームの映像に浮かび上がる〈歌う女優〉。その魅惑的なイメージはドキュメンタリーとフィクションの境界を曖昧にして、観る者を映画的官能に溺れさせる。またモノラル・マイクで録音され、緻密なミックスを施された音響も見事だ。例えば二人の日本人女性が映る短いショットの音をミックスするだけでも、一週間近くをかけたらしい。コスタによると彼女達の穏やかな佇まいを伝えるため、「コップを置く音や彼女達が立ち上がる音、すべての音を繊細で穏やかな感じにしたかった」からだとか。ゴダールの音響センスを天才的と絶賛するコスタらしいこだわりぶりだ。

「ロックを扱っている映画はいろいろあるが、まともな仕事をしたのはゴダールだけだ。例えば『ワン・プラス・ワン』を観れば、いかにローリング・ストーンズが自分たちの音楽を愛しているかが伝わってくる。そうした愛が観る者に伝わることが大切なんだ」

もちろん、本作もまたジャンヌと音楽のラヴストーリーといえる。そして、それを穏やかに見守るコスタの眼差し。この映画を観れば、誰もが彼女とその歌声を愛さずにはいられないはずだ。

映画『何も変えてはならない』

監督・脚本・撮影:ペドロ・コスタ
音楽:ピエール・アルフェリ/ロドルフ・ビュルジェ/ジャック・オッフェンバック
出演:ジャンヌ・バリバール/ロドルフ・ビュルジェ/エルヴェ・ロース/アルノー・ディテルラン/ジョエル・トゥー/フレッド・カッシュ 
配給:シネマトリックス(2009年 ポルトガル・フランス)
◎7/31(土)より、ユーロスペースにて公開!
公開に先駆けて、7/24(土)よりペドロ・コスタ特集も開催!
http://www.cinematrix.jp

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年07月09日 12:54

更新: 2010年07月09日 20:54

ソース: intoxicate vol.86 (2010年6月20日発行)

interview & text:村尾泰郎