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インタビュー

Grant Stewart

「ロリンズは私にとって特別な存在なんだ」

テナーサックスの俊英グラント・スチュワートの新作は、タイトルから窺い知ることもできるように、彼が敬愛するテナーの巨匠ソニー・ロリンズへ捧げた作品だ。

「多くのアルトサックス・プレイヤーがチャーリー・パーカーの影響を受けたように、多くのテナーサックス・プレイヤーがロリンズの影響を受けている。もちろん、私も同様で、私の演奏にはいろんなかたちでロリンズの影響を聴くことができると思う。……何といっても、彼の演奏はサウンド、リズム、ハーモニーという3つの要素のバランスが見事で、テナーの音色も特徴的で素晴らしく、それは誰をも魅了するものだ。また、彼はユーモアのセンスもあるし、ウィットに富んでいるよね。ロリンズは私にとって特別な存在なんだ」

収録曲はすべて御大がレコーディングしたことのあるナンバーだ。アルバム・タイトル曲もそうだが、《モリタート》《エアジン》《アルフィーのテーマ》はロリンズ・ファンにはお馴染みであろう。他に《パラドックス》《世界一美しい娘》といったナンバーが演奏されている。

「確かにファンにお馴染みの曲も演奏しているけど、おそらく、あまり知られていない曲も演奏している。私にとっては、新作に収録したどの曲もすべて私の演奏スタイルを確立するためにとても大切な要素であったし、人生におけるいろいろなタイミングで、私に大きな影響を与えてくれた曲なんだ」

参加メンバーは、デビッド・ヘイゼルタイン(P)、ピーター・ワシントン(b)、フィル・スチュワート(ds)。NYのスタジオにグラントが信頼する実力者たちが集まり、一発録音(2チャンネル)でレコーディングされた。

「ライブの雰囲気を出すため、メンバーそれぞれをブースに隔離することをしないで、お互いの顔を見つつ、みんなでコミュニケートしながら演奏したんだ。このやり方だとミスがあってもその部分の修正はできないけど、より自然で生音に近いし、ジャズのスピリッツが失われずにすむしね。お互いに触発されながら、じつにスムーズにレコーディングは進んでいったよ。私は時に〈失敗〉をアルバムに残すことも自然体で良いと思っている」

グラントはロリンズを真似て演奏しているわけではない。快適なテンポでリズムが躍動するグルーヴィな曲では、彼ならではの個性でテナーを豪放にブロウし、その芯のある逞しいトーンは魅力的だ。そして、バラード演奏におけるメロディの紡ぎ方に、〈歌う〉ことに徹するグラントの真骨頂が聴ける。たとえば、リチャード・ロジャース作曲の《ユー・アー・トゥー・ビューティフル》。この曲はゆったりとしたテンポで演奏されるが、彼はまさにシンガーが〈歌う〉ように演奏し、何とも味わい深いテナーサックス・ソロに魅了される。

「バラードに関しては常に歌詞を理解するようにしている。演奏中に歌詞の全体的な意味が頭の中に浮かんだりすることもあるんだ」

グラント・スチュワートの〈うた〉が溢れる新作である。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年07月15日 12:34

更新: 2010年07月15日 12:57

ソース: intoxicate vol.86 (2010年6月20日発行)

interview & text : 上村敏晃