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インタビュー

INTERVIEW(2)――〈変さ〉を売りにするのはもうやめましょう

 

〈変さ〉を売りにするのはもうやめましょう

 

――そんななかでこの“スペース”は温めていたテーマなんですか? いつか歌ってやろうと。

「そうですね。〈拝啓シリーズ第2弾〉として。だいぶ空いてますけどね。“拝啓、ジョン・レノン”が96年なんで、14年ぶりに。だから次は2024年になります(笑)」

――〈どれだけ自分が変なヤツかを自慢してるヤツが多すぎて〉という1行目から、〈素直になればなるほど楽になれる〉という結論で終わる、実にYO-KINGさんらしいポジティヴなメッセージ・ソングだと思います。

「歌詞はまぁ、そのままなんですけど、〈変さ〉を売りにするのってもうやめましょうよという、提案というか何というか。いま(この取材)もね、入ってきたら挨拶して、天気の話して、お茶をいただいて、ちゃんとコアな話にだんだん近付いていくみたいな、それが大事なんですよ。そこをおろそかにしてカッコいいものを作っても、認めたくないなというか。〈私、変わってるってよく言われるんです〉とか、そういう人の話はそんなにおもしろくないじゃないですか。なんかすげぇ変だけど、なぜか出てきちゃったんだよね、とか、普通はこうなるけど俺はこうなっちゃうんだよね、というのが好きなんですよ」

――“スペース”という言葉の元ネタはジェリー・ガルシアということですけど、いつぐらいですか? 彼のこの言葉を知ったのは。10代ですか。

「いやいや、ここ10年以内だと思います。グレイトフル・デッドをちゃんと聴いたのは。ジャム・バンドのブームがあって、そのルーツとして、親分格としてデッドがいると。だから、ガルシアが亡くなってからですね。もちろん生きてる頃も知ってはいましたけど、積極的には聴いてなかったです。でもロックをずっと聴いていくと、必ず〈当たる〉んですよね。どの山道を登って行っても、〈あれ、ここにもグレイトフル・デッドが出てきた〉って。これはいかなきゃ駄目なんだなと思って、研究して、全部聴いて。たまたまボックスが2つ出たので、翻訳の解説を読みながら、グレイトフル・デッド体験をして。この業界にいると、デッド・ヘッズ的なおじさんがけっこういて、〈このおじさんたちを夢中にさせるグレイトフル・デッドって何なんだろう?〉というのは薄々あって、〈いつか研究しなきゃなるまい〉ということはずっと思ってたんですよ。そしたらやっぱり、〈ああ、おもしろいな〉と思いましたね」

 

YO-KING_Asub

 

――そのグレイトフル・デッドのリーダー、ジェリー・ガルシアが言った〈スペース〉とは、つまりどんな概念なんですか。

「〈スペース〉はですね、ジェリー・ガルシアの本に出てきたんだけど、それを僕なりに解釈してこの詞にしたんですよ。さっきも言ったけど、常識はもちろん持ちながらも、定点があって、どこまで振り切れるか。遠くまで飛べば飛ぶほど、半径が大きくなって、円が大きくなる。それがスペース。あとは、演奏する時に〈誰かのためにスペースを空けておく〉とかね。ここはピアノのスペースだからあけておこうという、余地という意味もある。あと精神で言ったら、自分と違う他者を受け入れる度量というのも、スペースだと思います」

――いろいろ応用が効きますね。

「そうそう。いろいろあるんですよ。脱線しますけど、貧乏人の家ほどごちゃごちゃ物が多くて、金持ちの家ほど物がないっていう話があって。スペースがちゃんとある。まぁ、机の上を見ればその人がわかるという話もありますし。それはちょっと、俺、耳が痛くて(笑)。スッキリ生きたいなとは思いますけどね。物も好きだし。だから、そんな、決めないでいいんでしょうね。スッキリ生きるぞとか、物はもう買わないぞとか言わずに、その場その場で。明日になったら変わるんだという気持ちがありつつ、日々楽しく生きるみたいな」

――いいなぁと思ったのは、YO-KINGさんがこういうテーマを歌っても、オヤジの説教にならないんですよね。

「良かった。さすがに僕も、いろんな場でだんだん年長者になってきたんで、〈俺、いま説教してるな〉って思う時があって、これはいかんと。求められればする、ぐらいでいいんじゃないですか。あとは楽しく、馬鹿な話をしてるほうがいいのかなという気はしますね。説教して人を変えようとしても、変わんないっていうことがわかったんですよ。いろんな経験をして、〈人って変わんないんだ〉と思ったら、すごい楽になった。ほとんどの悩みって、人を変えようとする悩みなんですよ。でも、人は変わらない。あと、人の機嫌を取らない。自分の機嫌を取る。それだけで、すごく楽になる。暗くて怒ってたりする人がいると、〈どうしたの、何かあったの?〉」とか言っちゃうじゃないですか。駄目なんですよ、そんなことしちゃ。その人は勝手に機嫌が悪いだけで、僕は僕の勝手で機嫌がいい。ほっといてあげる。天気といっしょだから、明日になるとなおってる。なおしたかったら、自分の機嫌を良くするほうが、より早めになおるんですよ。人の機嫌を良くするためには、まず自分の機嫌を良くする」

――う~ん。なるほど。

「深いでしょ? そういうことも、スペースですからね」

――深いテーマをサラリと言ってのけて、押し付けがましくない。YO-KINGさんらしいです。

「僕の考え方のいいところだけ使って、より幸せになってくれれば嬉しいし。その人の助けになった数だけ、僕がもっと幸せになるんですよ」

 

カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2010年07月21日 17:59

更新: 2010年07月21日 18:22

インタヴュー・文/宮本英夫