インタビュー

Eric Legnini

レニーニ流の新しいバラード

ベルギー生まれでパリ在住。そして名前から察することができるように、そのルーツはイタリアにある。フランス語、イタリア語、そして10代でアメリカ留学しているから英語もでき、日本語も学びたいと笑った。この国際性は、自然に獲得したものだが、エリック・レニーニ自身、こうした混交したものが好きだと言う。ヨーロッパのジャズの中心は、ベルリン、ロンドン、パリだと思うけど、中でもパリが好きなのは、様々なミュージシャンと気軽に出会える機会が多いからだと言う。しかも、そのミュージシャンはジャズとは限らない。意外かもしれないが、レニーニが口にしたミュージシャンは、ジャンルを超えたシンガーたちだった。歌手との共演が好きで、レコードのプロデュースもやっている。ちなみに近年ミルトン・ナシメントと2年間共演しているが、ナシメントはどう思っているか変わらないが、実に楽しい2年だったと振り返っている。実に謙虚な人である。

レニーニ・トリオの最新作『ニュー・バラッド』が15曲もたくさんの曲を演奏しているのも、こうしたことと関係しているようだ。自分のジャズが普通と違うと思われるのは、シンガーとの関わりが多いからだろうともいう。アルバムの各演奏は、大概は3分以内。長くても4分半である。繰り返しの多いジャズ演奏は好きじゃないと言う。長い演奏で聴かせるのはジョン・コルトレーン以外いないと断言する。ただ、ライヴだと聴衆とその場を作るから、その場合は長くてもいいけど、スタジオには聴衆はいないという。

この『ニュー・バラッド』に収められた15曲は、いつも演奏している曲だから、録音も時間がかからなかったと言う。テイクを重ねるとどれがいいか迷ってしまうし、また、最初の新鮮な演奏を超えるものはなかなかできない。ひとつだけ普段演奏してないということでリハーサルしたのは、冒頭のジェームス・テイラーの《寂しい夜》だが、結果的にこの演奏が、自分としてはアルバムのベストだという。ちなみにソロ・トラックでは、《プレリュード・トゥ・ア・キス》が一番の好み。

エリック・レニーニは、普段完成後のアルバムは、ほとんど聴かないが、こういう質問に即答できるのは、このアルバムは、例外的に自分の家で繰り返し楽しんでいるかららしい。何しろレニーニ夫人が大好きなんだという。そして、こんなところにレニーニの曲好き、メロディー好きが分かる気がする。曲とは物語の楽しみだという。たくさんの曲にはたくさんの物語があり、それを楽しむのが好きなんだという。冒頭のテイラーを除いて、比較的ジャズで取り上げられる曲が並ぶが、レニーニたちは、その物語をただただ楽しんでいるに過ぎないのかもしれない。18歳のときキース・ジャレットのスタンダード・トリオを聴き驚嘆しジャズにのめり込んだが、そのときキースが信じがたい曲の語り部だということ、ジャズとはそういう音楽だと確信したのだと思う。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年07月27日 11:45

更新: 2010年07月27日 11:55

ソース: intoxicate vol.86 (2010年6月20日発行)

interview & text : 青木和富