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インタビュー

Luis Fernando Perez

『ラ・フォル・ジュルネ』に続き9月には『ル・ジュルナル・ド・パリ』でも来日する、マルタンの秘蔵っ子。

毎年G.W.に丸の内周辺を沸かせるクラシック音楽祭『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン』。今年は〈ショパンの宇宙〉がテーマだったこともあり、国内外のスター・ピアニストの饗宴となったが、マドリッド生まれのルイス・フェルナンド・ペレスも大いに注目を集めた演奏家のひとり。ちょうど、同音楽祭のアーティスティック・ディレクターを務めるルネ・マルタンが手がける【ミラーレ・レーベル】から、新譜である『ショパン ノクターン集 vol.1』をリリースしたばかりという、絶妙なタイミングでの公演だった。

「ひとつの作品の中で様々なドラマが自由に展開する面白さ…それも短編ながら、人間の一生分の物語を秘めてさえいそうな奥深さがショパンのノクターンにはあります。たとえA→B→Aの形式をとっていても、後のAは単なる再現ではないという難しさ。最初から最後まで緊張感が保たれていて、決して気が抜けない。だからこそ彼の芸術の核となるエッセンスが詰まっている…ショパンという名のエレガンス、ショパン的なパフュームのね。しかもそこには、まるで自然の一部のように人間の姿が映し出されているようにも思うのです。例えばブラームスの描く自然が、旅行先の美しい風景のようなものだとすると、ショパンにとっての自然は人間そのもの。人間の感情であり、生き様。時にそれはラヴ・ストーリーだったり、悲劇のようであったり。だから洗練の極みでありながらも、非常に人間臭くて生々しい。そして、嘘っぽくないんです」

アルバムは甘美なメロディであまりにも有名な《第2番変ホ長調Op.9-2》で始まり、ロマン・ポランスキーの映画『戦場のピアニスト』に使用されて人気曲となった、遺作である《第20番嬰ハ短調》で幕を閉じる。

「全体の流れにこだわって、サントラみたいな構成でまとめたかった。1曲目に〈初めまして!〉みたいな作品を持ってきて和やかに始めて、長い旅を経た最後には、身を裂くような重苦しい作品で余韻を持って聴き終わってもらえるように」

陰鬱かつ壮大な《第7番嬰ハ短調Op.27-1》や円熟期の傑作《第13番ハ短調Op.48-1》の持つ劇的な性格を表現するダイナミックな演奏も素晴らしいが、《第10番変イ長調Op.32-2》のようなマイナーな作品でも、奥底に熱く燃えるような感情を隠しつつ表面上は眠っているかのように静かに奏でる中間部などに魅了される。

「ショパンの作品から浮かび上がってくるのは、彼がいつも愛に飢え、生涯、真実の愛を求め続けていたということでしょうか。ジョルジュ・サンドとの関係も通常の男女とは違うユニークなものだったし。しかも病気がちで体調の悪さが常に暗い陰を落として…決して容易な人生ではなかったはずです。ただ実際に演奏する時、楽譜には具体的な物語が書かれているわけではありませんから、私自身が体験した〈苦痛〉や私にとっての〈ソット・ヴォーチェ〉な感覚を総動員して、ショパンのメッセージを読み解くしかないんですが…。だからこそ自分の内面を磨く、より豊かなプライヴェート・ライフを送ることも演奏家には必要ですよね(笑)」

もちろんショパン以外の作曲家にも、ペレスの興味は尽きない。ちなみに、【ミラーレ】における前作は18世紀スペイン、カタルーニャ地方出身のアントニオ・ソレルの情熱的なソナタ集で、こちらも高い評価を集めていた。

「マルタン氏は独創的で有能なプロデューサーであるばかりか、CD制作においては(この厳しい時代にあっては稀有なことですが…)常に演奏家の意向を尊重してくれる寛大さを示してくれます。私たちは自ら選んだ作品に心ゆくまで向き合い、納得のいく仕事を続けることが出来るのです。幸い私のレパートリーはかなり広いので(笑)、今後も彼の期待を裏切ることなく、確実にレコーディングを重ねていきたいと思っています」

9月にはそのルネ・マルタンが昨年日本で立ち上げた新しいプロジェクトの第2弾〈ル・ジュルナル・ド・パリ~パリ印象主義時代の音楽日記(1864-1922)〉にも参加して再来日を予定。印象派の絵画や彫刻に同調するかのようにフォーレやドビュッシー、ラヴェルらが魅力的な作品を次々に発表していた頃のパリを、ピアノを中心に年代順に紐解くといった趣向で、ペレスに加えて世界的に活躍する(個性の違う)演奏家たちが勢ぞろいするのも大いに楽しみだ。(※各60分のプログラムを自由に組み合わせて選べるシステムも〈マルタン流〉で魅力的!)

「日本で演奏できるのが私にとっては何よりの楽しみです。美味しい食べ物に熱心な聴衆たち、そして特に、自然と見事に共存している伝統的な美が、いつも私にインスピレーションを与えてくれるから」

『ル・ジュルナル・ド・パリ“パリ印象主義時代の音楽日記”(1864-1922)ガラ・コンサート』

9/17(金)19:00開演

『ル・ジュルナル・ド・パリ“パリ印象主義時代の音楽日記”(1864-1922)』

9/18(土)14:00/16:00/18:00/20:00(各回60分)
9/19(日)14:00/16:00/18:00/20:00(各回60分)
9/20(月・祝)14:00/16:00/18:00/20:00(各回60分)

出演:ジャン=クロード・ペヌティエ/児玉 桃/アンヌ・ケフェレック/ルイス・フェルナンド・ペレス(Pf)、モディリアーニ弦楽四重奏団 会場:東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

詳細はhttp://www.kajimotomusic.com/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年08月02日 22:04

更新: 2010年08月02日 22:21

ソース: intoxicate vol.86 (2010年6月20日発行)

interview & text : 東端哲也