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インタビュー

窪田ミナ

アイリッシュ・トラッドで〈島根の妖怪〉を奏でる

漫画家・水木しげると、彼を支え続ける妻・布枝の実話を基にした、朝の連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』。番組冒頭からいきなり物語がスタートし(つまり主題歌とタイトルクレジットが後回し)、ハリウッドのハートフルドラマもかくやと思わせる、幸福な響きに満ちた窪田ミナ作曲のスコアに驚いた視聴者も多いはずだ。

「これから始まる一日を豊かな気持ちで過ごせるような、爽やかさと伸び伸びした感じ。それと人間的なやさしさや、あたたかさ。さらに『これまでの朝ドラとは全く異なるタイプ』のヒロイン・布美枝をどのように表現するかが作曲の大きなポイントになりました」

木管で演奏される布美枝(原作者・武良布枝の役名)のテーマは、よく聴くと旋律線に〈波〉がある。

「あまりソフィスティケートされていないメロディを、敢えて狙ってみたんです。つまり、一筋縄ではいかない(山あり谷ありの)人生を送ってきたヒロインを、メロディラインで表現してみようと。先日、布枝さんご本人とお会いした時、『毎朝、あなたの曲を聴いてますよ』とおっとり仰られたのが、恥ずかしくて(笑)」

一方、夫・茂(水木しげるの役名)のテーマには、窪田は意外にもバスクラリネットを使用している。

「茂は(戦争で)壮絶な体験をしているのに度量が大きく、あたたかい人。だけど、傍目には風変わりな人と見られています。その両側面を表現するのにバスクラを使ってみたら、これがすんなりハマったんです」

もうひとつ『ゲゲゲ~』のスコアで注目すべきは、アイリッシュ・トラッドの楽器を使用していることだ。

「アイルランドには妖精や怪物の伝承が多く残っていますが、それは妖怪の言い伝えが残る(ドラマの舞台)島根も同じ。どこか通じるものがあると思って、アイリッシュ・トラッドの楽器を使ってみたんです。少し大胆過ぎないかと反応が心配でしたが、結果的にドラマの中での使用回数も多くなって、嬉しいです」

そんなコンセプトを思いつく発想の源には、彼女が英国王立音楽院で現代音楽を学んだ体験が影響している。

「もともとブリテンが好きでしたが、授業ではシェーンベルクの分析をみっちりやらされ、ターネジー、ジョン・タヴナー、シュニトケ、リゲティといった作曲家が毎週のように講座を開きました。ロンドンでは、普通にポリーニを聴きに行っても現代音楽が聴けますからね」

作曲にはCubaseを使うものの、今でもスコアは全部手書き。現代音楽出身に対するこだわりが、そこにある。

「今回も1ヶ月半で50曲、全部手書きです。だから、録音セッションでピアノを弾くのがとても辛くて(笑)」

ピアニストとしての活動にも期待がかかるところだ。

「特に好きな作曲家はハイドン、ショパン、メシアン。リサイタルで弾くとなると猛練習が必要ですが、すっとコンサートをしていないので、いつかやりたいですね」

 

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年08月17日 11:50

更新: 2010年08月17日 12:17

ソース: intoxicate vol.86 (2010年6月20日発行)

interview & text : 前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)