George Winston
右手はジム・モリソンで左手はジェイムス・ブッカー
《あこがれ/愛」》などの印象的なメロディーの作者であるジョージ・ウィンストンだが、自分を作曲家と考えておらず、解釈者だと強調する。好きな作品を深いレベルで鑑賞し、ピアノ・ソロへの編曲を試みる〈勉強〉を楽しんでいるのだ。そんな彼が全曲への挑戦を考える3組が、プロフェッサー・ロングヘア、ザ・ドアーズ、そしてヴィンス・ガラルディである。ガラルディはアニメ『ピーナッツ』の音楽で広く知られるジャズ・ピアニストで、65年のTV番組『チャーリー・ブラウンのクリスマス』のサウンドトラックは名作の誉れが高い。ウィンストンの新作『ラヴ・ウィル・カム』は96年の『ライナス&ルーシー』に続くガラルディ作品集第2弾だ。
「とにかく彼の曲が大好きだし、彼の演奏が、その左手の使い方が好きだ。そしてサンフランシスコ〜ベイエリアの雰囲気があるところや季節感のあるところもね」
サンタ・クルーズ(サンフランシスコから百キロ少し)の住人にとって、ガラルディの音楽は自分の街のサウンドでもある。『オータム』などの一連の牧歌的なアルバムに幼少期を過ごしたモンタナの大自然が反映しているように、彼の音楽には場所の感覚も重要なようだ。
「いや、季節感の方が大事かな。でも、季節はどこかの場所で体験しなければならないから。季節と場所は1枚の硬貨の表と裏なんだね」
ガラルディの音楽にはボサノヴァやラテンの影響もあるが、彼自身は自分のことを常に〈改良されたブギウギ・ピアノ・プレイヤー〉と呼んでいた。
「彼は28年生まれで、10歳のときが〈ブギウギ・ピアノのブームが起こった〉38年だ。当時の多くの人たちと同じように、ジミー・ヤンシーをはじめ、ミードラック・ルイス、アルバート・エモンズ、ピート・ジョンソンらを聴いていたんだね。ブギウギでは左手はドラマーの役割をする。彼の曲は必ずしもブギウギと同じパターンじゃないけど、一貫してリズムを供給している。で、僕は彼の左手にジェイムス・ブッカーの技巧を組み合わせた。僕のピアノは本質的に右手が(ドアーズの)ジム・モリソンで、左手がブッカーなんだよ」
つまりブッカーやヘンリー・バトラーのスタイルを取り入れての解釈も含む本作はニューオーリンズ・スタイルのピアノへの長年の取り組みを反映したものでもある。
「ブッカーはミードラック・ルイスからインスピレーションを得ている。だから、2人のどちらもブギウギというアフリカ系アメリカ音楽の伝統を受け継いでいる。ドアーズだってそうなんだよ。プロフェッサー・ロングヘア、ガラルディ、ドアーズ、すごく違うじゃないかってみんなが言うんだけど、実はそんなに違いはないんだ」
次作はメキシコ湾での石油流出事故を受けて、06年のベネフィット・アルバム『ガルフ・コースト・ブルーズ・アンド・インプレッションズ』の続編になりそう。