鈴木大介
生誕125周年のバリオス作品を、銘器で再録音
ギター界の玉手箱・鈴木大介が新たにリリースしたのは放浪のギタリスト、アグスティン・バリオス(1885〜1944)の作品集だ。実は1990年代末にすでに3枚の録音(フォンテック)をリリースしていた鈴木だが、なぜいま改めてバリオスなのだろうか?
「イグナシオ・フレタの楽器に出会ったということが大きいですね。64年製の楽器なんだけど、この楽器に触れた時に、この楽器でいちばん弾きたい作品はなにかなと考えて、すぐ出てきたのがバリオスだった。それで改めてバリオスに取り組んでみようかと。ちょうど今年バリオスの生誕125周年でもあったのでタイミングも良かった」
凝り性の鈴木らしく、楽譜の校訂作業なども並行して行ないながら、 収録作品の準備に入った。
「バリオスの楽譜というのが、出版されているものも、また自筆譜も、 時と場合によってかなり違っている部分があります。自分の作品を次々にあげてしまったり、出版譜に関してもそれほど細かなこだわりがなかったようですね。でも、その楽譜の違いの中からバリオスのその時の気持ちとか、音楽に対する考え方が分かってくるので、校訂というのは非常に面白い作業です」
バリオスという作曲家の魅力は、ギター・ファンにとっては周知だが、一般的にはまだ知られていない。
「バリオスの魅力は彼のコスモポリタン性にあると思います。例えば今回録音したワルツなどは明らかにショパンのワルツの影響を受けながら、そこに南米的な要素も加わっている。バリオスはパラグアイ出身ですが、そこに留まることなく、ラテン・アメリカ全体を歩き回って、各地の伝統的な音楽の影響も消化しています。その感受性の豊かさは素晴らしい」
一方で、非常に敬虔な宗教心を持っていたことも有名だ。
「例えば彼の作品の中で最も有名な『大聖堂』という作品ですが、これはバロック的、バッハ的な音楽の構造を持った作品で、もともとはウルグアイのモンテビデオの教会で体験した人々の祈りの姿を音楽的に表現したものと言われています。しかし、そうした一面だけでなく、どこへ行ってもそこの人々を楽しませてしまうようなエンターテイナー性も持っていた人です。パラグアイの民俗衣装を着て、鳥の羽根の帽子をかぶり演奏するなんてことも喜んで行なった人。そういう生き方そのものも非常に面白い存在です。たぶん、19世紀末から20世紀半ばにかけてのラテン・アメリカは、格差は非常に大きかったけれども、豊かな社会があったのではないかと思いますね。バリオスの音楽を聴いていると、そうした社会の状況の反映が聴き取れます」
フレタという楽器の性格もあり、非常に響きの美しい録音に仕上がっている。これからも録音、演奏ともにプロジェクトが満載で、次に彼の玉手箱の中から何が登場するのか、楽しみである。
渋谷店にてインストア・イヴェント決定!
9/25(土)15:00
『日本モーツァルト協会 第521回例会』
9/17(金) 18:45 東京文化会館・小ホール
『荘村清志&鈴木大介 デュオ・リサイタル』 共演:荘村清志(g)
10/9(土) 14:00 神奈川・アムールホール
『豪華ギタリストたちの饗宴』 共演:荘村清志、大萩康司、村治奏一(g)
11/14(日)14:00 宮城・中新田バッハホール
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