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インタビュー

秋田慎治

陰影に富んだ、スタイリッシュなジャズ・ピアノ

NY滞在中は、スタンリー・タレンタイン、ボブ・ミンツァー、ロイ・エアーズなどと共演し、帰国後は、作・編曲の分野でも活躍するピアニスト、秋田慎治が新作『fiction』を発表した。これは彼率いるピアノ・トリオによるアルバムで、3者の息の合った演奏は変化に富み、さまざまな音楽の表情をじっくりと堪能できる内容だ。

「ベースの安カ川大樹さん、ドラムの加納樹麻さんとは、もう2年以上も一緒に活動していて、お互いをよくわかっているし、演奏しながら3人で自由になれます」

このアルバムのオープナーは敬虔なピアノの響きが印象的で前奏曲の趣だ。続いて、2曲目では、さまざまな仕掛けを凝らしたエッジの効いた演奏が展開し、ピアノが小気味よく躍動する。そして、「雨のおかげで私たちが一つになれた」というポエジーが息づく3曲目。この曲ではベースのアルコ・ソロもフィーチャーされ、生気に満ちたピアノの響きがみずみずしい。そして、その響きはゆっくりと余韻を残しながら、静かに消えていく…。

「ジャズに限らず、僕はいろいろな音楽が好きです。2曲目にはそんな僕の音楽経験から抽出された幾つものテクスチャーが入っていて、ハーモニーの流れ的にもリズム的にも凝った、面白い演奏に仕上がりました。3曲目では、安カ川さんのソロの間、ずっと彼の音を聴きながらピアノを弾いていて、1ヵ所だけ、そのベースのフレーズに合わせて、ピアノも思いがけないコードを弾いている瞬間があるんです。それは決めていたことではなくて、瞬間の二人のひらめきが偶然一致した結果です」

収録曲は秋田のオリジナル曲中心の構成で、1曲目も同様だが、インタールード(間奏曲)のように挿入されている6曲目や10曲目はアルバムの全体にダイナミクスが生まれるのに効果的に機能している。

「ダイナミクスやコントラストをうまく用いることで作品としての完成度が高まると思ったんです。僕はピアノを弾く以外にもプロデュースやアレンジなどを手がけていますが、前作を発表して以降、そういう他の表現に携わることがとても増えて、その経験が今度の新作に活かされ、一つの〈かたち〉に結実した、と感じています」

不朽の名曲も演奏している。ヘンリー・マンシーニの《酒とバラの日々》、ホール&オーツの《サラ・スマイル》、ジョビンの《ハウ・インセンシティヴ》ジョニ・ミッチェルの《青春の光と影》。これらの曲では秋田の歌心あふれるピアノ演奏を味わうことができる。

「(この4曲では)いかにシンプルにその曲の良さを現在の自分で表現するかということに集中しました。《サラ…》は新作にちょっと違う絵を入れてみる試みでもありました。《青春の…》は原曲の持ち味を大切にジャズ・バラードとして演奏しました」

ラストを飾るのが11曲目《Piece to Peace》。じつは、この曲名をアルバム・タイトルにしてもいいと思ったほど、秋田お気に入りのオリジナルだ。彼の平和への願いが込められた名曲である。

『アルバム『fiction』発売記念ツアー』

9/24(金)新潟 Live and bar 9th Avenue
9/25(土)佐渡 Ray's
9/26(日)東京 COTTON CLUB
10/1(金)静岡 Life Time
10/2(土)名古屋 Star Eyes
10/3(日)大阪 Mister Kelly's
10/7(木)浜松 HERMIT DOLPHIN
10/8(金)姫路 George Adams
10/9(土)福岡 ROOMS
http://www.shinjiakita.com/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年09月07日 11:23

更新: 2010年09月07日 11:32

ソース: intoxicate vol.87 (2010年8月20日発行)

interview & text : 上村敏晃