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インタビュー

SPECIAL OTHERS 『THE GUIDE』

 

初めて聴くのに、音が鳴っただけで彼らの曲だとわかる。この4人だから鳴らせる真のオリジナリティーともいえるその感覚は、新作でもさらに強まって……何かスゴイよ!

 

 

殺人的にキャッチーな冒頭2曲で一気に物語の世界に引き摺り込まれ、場面転換的にインサートされたアコースティック・チューンが穏やかに気を落ち着かせたと思いきや、そこからじわじわとディープな本題へとのめり込んで行く──SPECIAL OTHERSの約1年半ぶりとなるニュー・アルバム『THE GUIDE』は、特にここ最近で彼らの音楽に触れたリスナーにとっては、まさにスペアザの魅力を知り尽くすためのガイドとなり得る、充実した内容に仕上がった。

 

プリミティヴな発見の繰り返し

「でも、俺らがガイドするのか、もしかしたら(このアルバムに自分たちが)ガイドされてるのか、まだ明確にはわからないんですけどね」(芹澤優真、キーボード)。

前作『PB』のリリース直後から始動させたというレコーディング・セッション。いつもよりも余裕を持った制作期間で、バンド・サウンドの根本を見つめ直すことができたという。

「アンプの真空管を変えたり、シンバルを変えたり、新しいエフェクターを試してみたり、バンドとしていい音を出すっていう部分を詰めることができました」(宮原良太、ドラムス/パーカッション)。

そうして揃ってスタジオに入り、誰かがふと出した音色や、ふと奏でたフレーズから次々と曲想が広がっていく。例えば、タイトル曲である“The Guide”は……。

「ベースの又吉がチューニングしてる時にヘンな音が出てて、そこからフレーズが思いついたんです。ちょっとベース貸して!って弾きはじめて」(宮原)。

「最初は半分悪ふざけだったけど、ふざけてるなかにも欲が出てくるんですよね。そのフレーズよりさっきのほうがいいね、とか、どんどんみんなが提案するようになって。そうすると、自然とディスカッションしてるみたいになって、プラスの方向にどんどん進んでいく」(柳下武史、ギター)。

「最初のおふざけベースラインがあって、そこからコーラスワークが壮大になっていく——そこに向かっていく感じもたまらなくって。これはいい曲だなって、ひとりで聴いてニヤニヤしちゃってます」(又吉優也、ベース)。

「最終的には涙するぐらい、いい曲になってるよね(笑)」(宮原)。

「笑いがあっての涙、みたいなところはあるよね。チャップリンだってそうじゃないですか? ふざけたところから始まって、実はそこに反戦のメッセージが入ってたりすると、胸に響く。そういうのと似てると思います。ユーモアがないものって、やっぱり感動できないなって思うから。“luster”は、ヤギ(柳下)が何かフレーズ弾いてたんだよね」(芹澤)。

「最初、サルサっぽい、リズムの頭が取りづらいようなシンコペーションしていくフレーズを練習がてら弾いてたら、みんなが乗っかってきて」(柳下)。

「それを単純にサルサっぽくしたらおもしろくないから、オリジナリティーのあるリズムを考えてみたり」(宮原)。

「フレーズと同じように、リズムからも曲が膨らんでいく。そういう意味では、リズムもメロディーも同等な扱いだよね」(柳下)。

「基本俺たち、理屈は何にも考えずに感覚で動いてて。4人が感覚で動いてると、ひとつの道が出来てるような感じ」(宮原)。

「たぶん、原始人が初めて火を起こした瞬間と同じような感覚かも(笑)」(芹澤)。

「じゃあ、その火のなかに魚を入れてみよう! 焼いたら旨かった!みたいな」(宮原)。

「今度はそこにレモンかけてみよう! でもやっぱレモンはいらねえや、って(笑)。そういうプリミティヴな発見の繰り返しなんですよね」(芹澤)。

 

本当に優れている音楽

そんな感じで収録されたそれぞれの曲は、何気ないきっかけを元に生まれている。セッションからこぼれ落ちたアイデアを拾い集めながらストーリーを紡いでいく様は、4人パーティーで冒険するロール・プレイング・ゲームのようでもある。

「タイトルが付けば、そこに意味は生まれるし、曲そのものにもストーリーはあるんだけど、だからって別にすごく思いを込めたっていうんじゃなく、ごく自然に生まれたものなんですよね。その時〈あっ、カッコイイ!〉って思った気持ちに正直に音を出す。最近は特に直情的なものを忘れないで演奏したいなって思ってるし、『THE GUIDE』には、そういう部分がしっかり出てると思います」(芹澤)。

プリミティヴな感覚を信じて、彼らはもっと気持ちいい音を! もっと新しい刺激を!……と道なき道を切り拓いてきた。そうして辿り着いた場所は見たことのない景色であるのは間違いないけれど、不思議と心と身体に染み付いた匂いや既視感を呼び起こすもので──リード・トラックである“Wait for The Sun”や、どこか童謡のようにも聴こえる“Draft”などは、彼らがかねてからこだわり続ける、ペンタトニック・スケールへの思い入れの、ある意味で極みといえる楽曲だ。

「ヨナ抜きの音階っていうと、日本の民謡をイメージしがちだけど、世界的にも民謡って5つの音で構成されるペンタトニックの音階が多いんですよね」(宮原)。

「(音階はシンプルだけど)シンプルじゃない感情が生まれてくるんだよね。喜びとか憂いとか」(芹澤)。

「それに、聴く人によって捉え方も感じ方も変わってくる。そこが世界的に愛される音階である所以なんでしょうね。俺らはそういうものが本当に音楽として優れてるって思うし──テクニックを追求していくと、シンプルな音階から外れて行って、いろんな音を足していくことで響きを変えていくのがカッコイイとされているんだけど、どんなにテクニックを磨いたとしても、この5つの音階の良さっていうのは忘れないでいたいんですよね」(宮原)。

完成したばかりの『THE GUIDE』を胸に、SPECIAL OTHERSの4人は、また新たな一歩を踏み出そうとしている。

 

▼SPECIAL OTHERSの作品を紹介。

左から、2004年のミニ・アルバム『BEN』(NMNL)、2005年のミニ・アルバム『UNCLE JOHN』(BabeStar)、2006年のミニ・アルバム『IDOL』、2006年作『Good Morning』、2007年のミニ・アルバム『STAR』、同2008年作『QUEST』(すべてビクター)

 

▼SPECIAL OTHERSの参加作を紹介。

左から、LOW IQ 01のトリビュート盤『HELLO! LOW IQ 01』(cutting edge)、PE'Zのトリビュート盤『NOT JAZZ!! BUT PE'Z!!!~10TH ANNIVERSARY TRIBUTE TO PE'Z~』(メディアファクトリー)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年09月28日 18:42

更新: 2010年09月28日 18:51

ソース: bounce 325号 (2010年9月25日発行)

インタヴュー・文/宮内 健