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インタビュー

THE HUNDRED IN THE HANDS 『The Hundred In The Hands』

 

ギャング・ギャング・ダンスにTVオン・ザ・レディオ、MGMTやグリズリー・ベア。最近だとイェーセイヤーにドラムスといったユニークな才能を次々と輩出する街=ブルックリンから、また新たなデュオが誕生した。その名はハンドレッド・イン・ザ・ハンズ。エレノア・エヴァーデルとジェイソン・フリードマンの男女2人から成るこのユニットは芸術色が強く、センセーショナルなサウンドを紡ぎ出すバンドがひしめき合う街ならではの、個性豊かでミステリアスなエレクトロ、アート・ポップ/ロック・ユニットである。そもそも2人はジェイソンがボッグスで活動していた際に出会い、程なくしてデュオに。その後UKで発表したシングル“Dressed In Dresden”をエレクトロニック系の老舗レーベル、ワープがピックアップ。彼らにとってわずか2回目のショウで契約が交わされた。

「ワープは歴史ある素晴らしいレーベルだから、決まった時は本当に嬉しかった。僕らの音楽は基本的にはポップ・ミュージックだけれど、決してレギュラーなポップ・ミュージックではないから、それが理解できないレーベルとは契約したくなかったんだ。でも、彼らは僕らのライヴを観た後で、それをすぐに見抜いてくれたんだ」(ジェイソン:以下同)。

ファースト・アルバム『The Hundred In The Hands』のレコーディングには、ジェイムズ・マーフィーらDFAとの仕事が著名なエリック・ブルーチェックをはじめ、複数のプロデューサーを起用。そうすることで一見ポップなようで複雑な側面も併せ持つ、彼ら独自の個性が、より精密に、味わい深く表現されている。

「アルバムにはトータルのコンセプトやストーリーは存在しない。けれども、各々の曲のリリックや音のテクスチャーに共通するポイントがいくつか存在する。歴史上の物事に関する言及だとか、都市での生活だとか、都会に暮らす若者たちについてとか、文化についてとか……そんな感じだね。各都市が乗り越えてきた大きな変化——例えば原爆とか、皆が知る歴史的な出来事というのは、当時の若者の人生を大きく変えたと思うんだけれど、そういうことについても触れているよ。特に現代のアメリカは、文化やそういった出来事の一つ一つが実際に何を意味しているのかに対して他人行儀なところがあるから、あえてそこに挑戦してみたんだ」。

エレノアが呟くように歌う、冒頭の“Young Aren't Young”。「〈若さとは何か〉について言及した」というこのオールド・ディスコティーク・ナンバーの彷徨と喪失感では、現代のティーンエイジャーが抱える問題や現実をそのアンニュイなサウンドからも感じ取ることができる。また、タイトなカッティング・ギターの醸し出すクールなビートに、都会的な洗練されたムードのある先行シングル“Dressed In Dresden”は広島やドレスデン、スターリングラードにおける当時の戦争に左右された人々の人生とナイトクラブで遊ぶ現代のキッズの生活のコントラストがユニークに描かれている。日常の光と陰、夢と現実を、ポップなメロディーとアンチポップなリリック、痛みも伴うエモーショナルで官能的な歌声が絶妙のバランスで表現しているのも実に印象的だ。

冒頭の“Young Aren't Young”に呼応するかのようにラストの“The Beach”には空っぽのメランコリーが漂っていて、その行き先のない不在感もいまの時代を感覚的に上手く描き出している。生活に限りなく近いところで〈いま〉を奏でるそのスタイルは、まるでウォーホルのポップ・アートのそれ。いかにも芸術の街、ブルックリンらしいインテリジェンスとソフィスティケイトされた低温の情熱が魅力的だ。ワープと言う先鋭的でエクスペリメンタルなレーベル、そして2010年もっともホットでトレンディーなヤングのアートの街から出るべくして出たバンド。今後の活動が楽しみだ。

 

PROFILE/ハンドレッド・イン・ザ・ハンズ

エレノア・エヴァーデル(ヴォーカル)とジェイソン・フリードマン(キーボード/ギター他)から成るNY出身のユニット。2000年代初頭よりボッグス名義で活動していたジェイソンと、彼のアルバム『Forts』(2007年)にフィーチャーされたエレノアが意気投合して、2008年頃に結成。2009年、“Dressed In Dresden”のリリース後にワープと契約し、コンピ『2010』に同曲を提供する。今年4月に“Dressed In Dresden”をワープから再リリース。5月にはEP『This Desert』を発表して注目を集める。ベア・イン・ヘヴン“Beast In Peace”のリミックス仕事などを経て、このたびファースト・アルバム『The Hundred In The Hands』(Warp/BEAT)をリリースしたばかり。

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年10月01日 16:45

更新: 2010年10月01日 16:45

ソース: bounce 325号 (2010年9月25日発行)

インタヴュー・文/井上由紀子