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インタビュー

80KIDZ 『WEEKEND WARRIOR』

 

ストイックにしてメロディアス、シンプルにしてアグレッシヴ。新しいサウンド、新しいウィークエンド。パーティーはもう終わっちゃったのかな? ばかやろう、まだ始まってもいねえよ!!

 

 

状況や流行を意識せずに

エレクトロは終わった――流行にめざといリスナーたちはピシャリとこう言いたがる。ジャンルの定義や盛衰を厳密化するのは音楽の明解さに比べたら数百倍難解だ。しかし2007年頃からジャスティスやエド・バンガー周辺が仕掛けた華麗なる狂騒から時が経ち、ミニマル・テクノ・リヴァイヴァルやUKファンキー、ポスト・ダブステップと分化する近年の欧州産ダンス・ミュージックを聴けば、冒頭で述べたような雰囲気にも頷ける。ただ、一方でこんな見方もあるかもしれない。〈エレクトロ〉はもはや普遍化したのだ――例えばUSのケイティ・ペリーと、UKのカルヴィン・ハリス、あるいは韓国の少女時代を聴くに、(背景は異なるが)各国のポップスがエレクトロ以降の手法に則って均質化し、拡大しているのではないだろうか?

ぼんやりとそんなことを考えていたら、 80KIDZから2枚目のフル・アルバムとなる『WEEKEND WARRIOR』が届けられた。前作『THIS IS MY SHIT』をリリースした昨年春の時点で、日本での〈エレクトロ〉に対してとても自覚的な発言をしていた彼ら。大ブレイクやメンバーの脱退を経たいま、彼らは何を考え、どんな音楽を聴かせてくれるのだろう?

「音楽関係の人は現象や流行に対して自覚的ですけれど、リスナーの人はそうではなく、純粋にいろんな作品を聴きたいんだと思う。いわゆるエレクトロっていうのが現状ではドンって終わっている段階で、自分たちが最近聴いているのも、いわゆるエレクトロではない。そういう状況や流行を意識せずに、80KIDZなりにアウトプットを出したいと思った」(Ali&)。

「この段階で、キャッチーでマス向けなフィーチャリング・シンガーを入れて出す、というのは前とギャップがありすぎて、たぶん気持ち悪いことになる。それをやろうとは思わなかった。今後もし、例えば少女時代からオファーがきたら、楽曲提供やプロデュースというのはぜひやってみたいけど(笑)」(JUN)。

歌モノを4曲収録して〈80KIDZなりのポップ・ミュージック〉を意識したという前作『THIS IS MY SHIT』に対して、新作は全曲がインストゥルメンタルで構成されている。半年前にはCSSのラヴフォックスをフィーチャーした“SPOILED BOY”も発表しているし、そのヴォーカル・トラックこそが80KIDZのポップネスに一役買っていただけに意外だった。

「海外で歌モノに対して評価があった、ということは特にはなくて。逆にインスト曲の“Miss Mars”だったり“Disdrive”、ライヴではそういうものに対してリアクションが良かったんですね。僕らが思う歌モノ感や歌詞の世界観と、海外の人が受ける印象というのがやっぱり違って、ギャップがあるのかなと。そういう反響を踏まえて、歌モノなしに行き着いたんです。歌がない代わりに、シンセとかのメロディーを立たせることを前回以上に考えた」(JUN)。

 

難解なことはやってない

新作はエレクトロ路線を継承しつつも、現在のクラブ・ミュージックに内在する要素をより意欲的に取り込んだ全15曲。ライヴを意識したというメロディック・エレクトロ“Nautilas”や“VOICE”で始まり、マンチェの雰囲気も漂うサイケ・テイストの“Flow With It”、元来のインディー・ポップ志向を感じさせながら「最終的にキングス・オブ・レオンを意識して仕上げた」(Ali&)という“When You See”や、DJの現場で使える曲を意識してフィジェット~UKファンキーのビートを受けた“I Wish”や“Private Beats”もある。アルバム・タイトル『WEEKEND WARRIOR』はDJやライヴで週末のクラブをロックしている彼ら自身のワーク・スタイルを表しているが、同時にそのパーティーに遊びに来る人々に向けられたものでもあるという。

「僕らは、難解なことはあまりやってないですし、わかりやすいですから。若い子にガンッて初期衝動として受けてほしいし。年配の人たちには、〈若い時にこういうのなかったよな〉っていう懐かしい気持ちも持って聴いてほしい。フランスの〈Social Club〉でライヴをやった時も、前の3列、4列目までは凄く若いお客さんでしたね。高校生くらいの子だった。ただ、前回よりも難解になっているとは思う(笑)」(Ali&)。

彼らは最近の興味対象として、ポスト・ダブステップのジェイムス・ブレイク、ニュー・ディスコのアザーリ&サード、テクノのピッチ・コントロールなどを挙げる音楽フリークでもありつつ、自身の作品に対しては〈80KIDZらしさ〉にこだわる。諸々の発言から察するにその〈らしさ〉は、〈キッズが熱狂できる音楽〉を常に前提に置くことかもしれない。事実、彼らのダンスフロアは新しい世代を招き入れているのだから。それゆえか国内の後進に対する彼らの眼差しは、真剣であり、冷静でもあった。

「シーンは変わらないですね。作品を出している若い人は少ないし。そういう状況でフックアップしていきたいっていう人はいないんですよね。僕はそこは歯痒い。だからいまは自分たちのことをもっとやりたい。自分たちがもっと知ってもらうことによって、後に続く若い子も出てくるようになるのかな、とは思う。もちろん、すぐに出てこないのはわかっているので」(Ali&)。

80KIDZは週末のパーティーで戦いながら、次のキッズがブースをジャックしに仕掛けてくるのを待っている。本作の海外でのリリースも準備が進められているというし、Sannomiya(Baroque)とhori(Scam Circle)をサポートに迎えたバンド編成でのライヴも今後さらに進化していくだろう。状況や流行がどうあれ、80KIDZの戦いは続いていくのだ。

 

▼80KIDZの過去作を紹介。

左から、2008年のEP『Life Begins At Eighty』、2009年作『THIS IS MY SHIT』(共にKidz Rec./KSR)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年10月20日 17:58

ソース: bounce 326号 (2010年10月25日発行)

インタヴュー・文/リョウ原田