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インタビュー

Magnus Hjorth

ピアノ・トリオとしての見事なチームワークを聴く


© Sho Ohashi

北欧ジャズの逸材として注目されるスウェーデン人ピアニスト、マグナス・ヨルトの新作『プラスティック・ムーン』。このアルバムは、彼の盟友であるベース奏者、ペーター・エルドと日本人ドラマー、池長一美が参加するピアノ・トリオ作だ。Cloudレーベルからの2作目にあたり、デンマーク・コペンハーゲンでの録音である。特筆すべきは、オーディオ界で評価の高い匠・ビャーネ・ヤンセンがレコーディング・エンジニアを務めていることだ。その、リアルな音像は、本作の音楽の価値をより一層高めている。

「スタジオは最高の環境だった…。それと、ヘッドホンから聴こえてくる音があまりに素晴らしくてね。楽器をセットして30分後にはもうレコーディングを始めていたよ」

鮮度のいいピアノの音だ。マグナスのピアノ・ソロには彼のみずみずしい感性が脈打っていて、その音色、響きに心奪われる。また、もう一つの聴きどころは、ピアノ・トリオとしての見事なチームワークだ。たとえば、ピアノの音に絶妙に絡んでいく、ペーターの音楽性豊かなベース・プレイ。独自の繊細で鋭敏な感覚が光る、池長のドラミング。マグナスのピアノだけでなく、同時にベースとドラムの音の動きにも耳を傾けていると、このトリオが、スリリングな演奏の展開の中で、その関係性を随時変化させながら、音楽を発展させていく様子が手に取るようにわかる。そして、その時、彼らの演奏が、他のどんなピアノ・トリオとも異なる、新しい個性を有していることにも気づくのだ。

「ペーターは、僕が今まで出会った中では一番強靭なリズムを奏でるベース・プレイヤーだ。…一美のドラムには触発されるよ。彼のドラミングは単なるタイムキーピングではなく、音楽に色付けをするという役割も果たしている。それで、僕やペーターがリズムを受け持つという逆転も生まれるんだ。彼のドラミングは、演奏で瞬間的に新しいものがどんどん生まれる重要な要素にもなっているよ」

このトリオのデビュー作にあたるのが昨年リリースされた『サムディ・ライブ・イン・ジャパン』である。同作は日本でのライヴ録音でスタンダード中心の選曲だったが、今回の新作は2曲がスタンダードで、他はマグナスと池長のオリジナル曲だ。

「スタンダードを演奏するのは、新しく何かを試したり、お互いがジャズという音楽を共通言語で語ったりするのに、とてもいい方法だと思う。実際、前作では、僕たちは初めての顔合わせだった。今回は、3人でツアーを行なったりとか、数多く演奏する機会を持った後でのレコーディングだったので、オリジナル曲を増やしたんだ。2曲のスタンダード《Shiny Stockings》と《I Remember You》はどちらも多彩なコード感で展開される、印象的なメロディを持つ曲で、僕の好きな曲だ」

北欧のメディアでも高い評価を得たデビュー作に比べて、今回の新作でのトリオのコンビネーションはより密になっている。また、このトリオならではの当意即妙のインタープレイはより自由度を増していて、そこに生まれる音楽は鮮烈でリリカルだ。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年11月04日 19:23

更新: 2010年11月05日 12:45

ソース: intoxicate vol.88 (2010年10月10日発行)

interview & text : 上村敏晃