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インタビュー

Gonzales

「僕はアーティストではなく、エンターテイナー」

新しいiPadのCMでチリー・ゴンザレスの新曲《Never Stop》が使われている。タップダンスを彷彿させるリズムが印象的だが、本人によれば、「チェスのゲームの際に頭で戦略を巡らせる、あの状況をピアノで表現したい」との思いから生まれた曲だという。

その《Never Stop》を収録したニュー・アルバム『アイヴォリー・タワー』では前2作で使った名前ゴンザレスからチリー・ゴンザレスに名義を変更させている。

「名前を変えるのはリスク。でも、それを負うのが好きだし、みんなを混乱させたいという願望を持っている。僕はいつも5分で理解出来るようなアーティストにはなりたくないと思っている。アルバムごとに違うことをやるのは自然であると同時にそういう意図もあるんだ」

今回はドイツ出身のボーイズ・ノイズとのコラボで、ピアノとエレクトロ・ミュージックの融合を試みている。

「ボーイズ・ノイズとは長い時間をかけてアイディアの交換をするなかで作り始めたんだけれど、実際に曲を書き始めてみると、予想以上にボーイズ・ノイズの腕が良くて、アッという間に3曲ぐらい出来てしまった。そうなると、僕は超える壁が欲しくなってしまう。それでアルバム制作と並行して映画を作ることにしたんだ」

それでなぜ映画を? すごく唐突のように思えて、本当に5分では理解不能なアーティストだが、アルバムと同名タイトルの映画『アイヴォリー・タワー』は製作から脚本、出演まで自身で行い、すでにヨーロッパ、アメリカでは公開されている。

「僕はストーリーを語りたいタイプ。インストゥルメンタルだと、聴き手によってその物語の受けとめ方が千差万別でしょ。その点、映画はストーリーを直接語れるから、ずっとやりたいと思っていた。基本的に僕はアーティストではなく、エンターテイナーだと思っているので、ハリウッド的なアプローチが嫌いじゃないしね」

〈僕はエンターテイナー〉。そのスタンスは、9月4日に行われた初来日公演にも表れていた。心奪う洒脱なピアノの演奏の合間に通訳を人質に見立てて、自分のコメントを訳させたり、観客に簡単なリフを弾かせて、即興のラップを披露したり、まさに芸達者。日本ではまだカルト的な人気だが、根本的に「僕に対して〈Hate〉という感情を抱く人にどうしたら〈Love〉を感じてもらえるか。そこに取り組むのが好き」という考えの持ち主。もっと一般の支持が得られる可能性を秘めていると思う。

また、チリー・ゴンザレスは、アーティストであると同時にプロデューサーとしても活躍している。2007年にiPodのCMに使われて、世界中で大ヒットしたファイストの『1,2,3,4』も彼が手懸けた。ルノー・ルタンとのチームは解消されたが、彼が〈ミュージック・ファミリー〉と呼び、その関係を大切にしているファイストとピーチーズの新作を現在プロデュースしているという。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年11月09日 16:48

更新: 2010年11月09日 16:57

ソース: intoxicate vol.88 (2010年10月10日発行)

interview & text : 服部のり子