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インタビュー

INTERVIEW(4)――ジャジー・ヒップホップの〈その先〉

 

ジャジー・ヒップホップの〈その先〉

 

Kenichiro Nishihara

 

――カヴァーはNishiharaさんの音楽でかなり重要な要素だと思うんですけど、今回はとりわけカヴァー曲が多い作品になりましたね。

「最初に〈Rugged〉って言葉から浮かんだ曲がマッコイ・タイナーの“Fly With The Wind”だったんですよ。曲調もそうですけど、ジャケも山の写真だったりして(笑)。で、あの曲ってDJ的にはすごく使いづらいので、DJユースになり得る“Fly With The Wind”を作りたいなと思ったんですよね」

――アルバムの出発点がカヴァーだったわけですね。

「ええ。で、次に作ったのがロニー・リストン・スミス“Expansions”のカヴァー。最近はああいうアシッド・ジャズっぽい音楽って耳にしないので、新鮮に響くかなと思ったんです。あと、いまウィスキーを飲んでる30代後半~40代くらいの人たちが遊んでた頃って、アシッド・ジャズのムーヴメントが盛り上がってた頃だから、ぴったりかなと。そうやって最初にカヴァーを2曲作っちゃったので、全体的にカヴァー多めになったのかもしれないですね」

――“Expansions”のカヴァーは原曲に近いジャズ・ファンク的なアレンジで、これまで以上に生っぽいアンサンブルに感じました。

「僕はジャジー・ヒップホップの流れにあるような音楽を作って来たと思いますけど、ああいったタイプの音楽が飽和してしまった気はするんですよね。以前はジャズをサンプリングしたものは全部買うくらい、貪欲にジャジー・ヒップホップを追い求めてたんですけど。そういう状況のなかで、自分がエキサイトできる音を探していきたいって気持ちがこのアルバムには強く出ていると思います」

――次の一手を模索するなかで生っぽいアプローチが出てきた。

「カヴァー曲にしても、これまでと違う感覚で選んでるとは思います」

――ポリス“Every Breath You Take”も採り上げてますけど、確かにこの選曲はこれまでにない感じですよね。

「それもウィスキーから浮かんだアイデアで。〈TALISKER〉はイギリス北西部の島で作られているので、英国~ヨーロッパ的なイメージにしたかったんです。そこでポリスをカヴァーしようと。“Thinking Of You”のカヴァーも、オリジナルのシスター・スレッジではなくて、ポール・ウェラーのカヴァーが念頭にあったんですよ」

――ポール・ウェラーのアニキ感は〈Rugged〉ですね(笑)。

「そのへんのチョイスは選曲家として経験があってのものかもしれないですね。まあ凝りまくった選曲をしているわけじゃ全然ないですけど(笑)」

――選曲に関してポピュラリティーは意識してますか? あまりマニアックにしない、みたいな。

「それはすごくあります。ジャズにしても、今回のテーマであるウィスキーにしても、決して間口が広いものではないと思うんです。みんなが知ってる曲をカヴァーすることで入り込むきっかけになればいいなと。あと、ポピュラリティーのある曲って、メロディーが良いとか、誰もが感じられる魅力を備えてますよね。音楽の根幹の部分がしっかりしてる。そういう曲はカヴァーしたくなるし、いろいろ解釈できますよね」

――ラストの2曲はグルーヴの重心がグッと低くなる印象を受けました。特に“Waves Dub”はタイトル通りのダブ的なアプローチがすごく新鮮で。

「あの曲はUKのダブっぽい感じですね。マッド・プロフェッサーとかマッシヴ・アタックとかが好きだったので。そこにピアノを入れたりすることで自分らしい音にできたんじゃないかと」

――今回はアートワークをSILENT POETSの下田法晴さんが手掛けてますけど、この“Waves Dub”はSILENT POETSにも通じるニュアンスがあるかなと感じました。

「僕はもともとSILENT POETSのファンで、下田さんだったら〈Rugged〉な何かを持ち込んでいただけるんじゃないかと考えたんです。あとアルバムを作る時に、自分がファンでいる方に何かをお願いしたいんですよ。そういうミーハー心を持ち込むことで楽しんで制作できる。だから今回〈これはチャンス!〉と思って下田さんに声を掛けさせていただきました(笑)」

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掲載: 2010年12月15日 18:00

インタヴュー・文/澤田大輔