GRAPEVINE 『真昼のストレンジランド』
1年半のインターバルを置いてグレイプバインのニューアルバム『真昼のストレンジランド』がリリースされる。
デビュー14年目に突入し、新たな黄金期を迎えようとする彼らが今たどり着いた<高み>とはどのような場所なのか?
熟成とみずみずしさ、実験性と普遍性が共存する、1本のストーリーに貫かれた名盤は必聴の仕上がり!!
「僕らには別に「こうしなければいけない」っていう枠組みはないですから。それを壊すことに関して躊躇はしてないです」(西川弘剛)
デビュー14年目に突入したバンド、グレイプバイン。
“スロウ”、“ふれていたい“などの名曲を残し、すでに実力派ロック・グループとして
安定した地位を築き上げている彼らであるが、
2011年その存在に再び熱い視線が集まるのは間違いない。
それは彼らの11枚目のオリジナル・アルバム『真昼のストレンジランド』の内容が
目を見張るものだからだ。
この作品で彼らはバンドの長いキャリアの中での金字塔を打ち立てるとともに、
現在の音楽シーンの中でもひときわ輝く、豊潤で、深遠で、高い完成度を誇る
<ロック名盤の新スタンダード>を提示してしまっている。
田中和将(Vo.&Gt.)「別に今回も制作前に「次はこういうアルバム作ろう」みたいな話はなかったんです。
毎回明確なヴィジョンなんてないし、僕らの場合は明確なヴィジョンを持とうと
思っても具体的なキーワードにして出せるようなものじゃないというか。
前作『TWANGS』の時もそうでしたけど「出てきた曲の料理の仕方が
いろいろあればいいな。
最近聴いてるような音楽のテイストが出せればいいな」ってぐらいでね」
基本的に派手なことは言わない人たちである。いくら内面は燃えていても、
普段はそっけない顔を作って、平然としたポーズを崩さない人たちである。
だから彼らは時に<孤高>と呼ばれ、淡々と我が道を歩んでいるように思えたが、
長田進をプロデューサーに迎えて以降、実は着々とモデル・チェンジを進めてきたのである。
バンドのダイナミズムの強化、各楽器が絡み合う生々しいグルーヴへの挑戦、
その一方でバンド形態すら放棄するようなアレンジの自由度の獲得……。
昨年はアメリカでライヴを行ない、今年は長田のリーダーアルバム『MALPASO』にも全面参加した。
変化はゆっくりしたペースであったが着実に熟成され、本作で大きな花を開かせたのである。
亀井亨(Dr.)「結構かっちり作ってる曲が多いので、それなりにヴォリューム感が出るかなと思ってたんだけど、
聴いてみたら意外とそうでもなくて。わりとサラッと聴けましたね。
そんなに長い曲とかないからかな? 全体的にコンパクトに曲がまとめられてる気はします」
では、その『真昼のストレンジランド』はどんな作品なのだろう?
まずは、その楽曲の多様さに舌を巻く。アメリカン、ブリティシュ、サザン、オルタナティヴといった
ロックの文脈はもちろんのこと、ポップ、クラシカル、ブルース、ジャジー、シンガー・ソングライター……など
あらゆる要素が混然一体となって、聴いたこともないような楽曲に結実している。
だが、それは決して実験的で聴きづらいわけではない。先行シングル「風の歌」で見せた
グレイプバイン王道の風格、そしてリード曲“真昼の子供たち”で見せたブライト&ドライで切ない新触感。
それらに代表されるように各楽曲は丁寧に練り上げられ、スルリと心地よく耳を通っていく。にもかかわらず
一度ヘッドフォンに集中してみるとわかる(ぜひとも集中して堪能してほしい!)綿密なサウンド・メイク、
演奏の味わい、アレンジの妙、曲に秘められたテンションの高さ……。
<ロック=若者の荒々しい音楽>と思い込んでいる人とは袖を分かつかもしれないが、
ここには芸術点、技術点ともにハイ・アヴェレージを叩き出した音楽の滋味がいっぱいに詰まっている。
簡単に言ってしまえば、深く、広く、優しく、強い――そういう金を払うに足る質の高さがあるのだ。
西川弘剛(Gt.)「まあ、僕らには別に「こうしなければいけない」っていう枠組みはないですから。
それを壊すことに関して躊躇はしてないです。固めるよりも広げていく方が単純に面白そうだし……
今後も広げていくんじゃないですかね?
あらゆる枠組みを取っ払ったところで鳴らされる純音楽の快感――
そんなサウンド面とともに、ぜひとも注目してほしいのが田中和将の描く歌詞世界の飛翔だ。
今作で彼の描く世界観は異質なレベルに到達している。サウンド面と同じく、
<ロック=1人称の若者の叫び>と言う固定概念を軽く超え、
これはデヴィット・リンチか? 少年時代か? どこの国の誰の話だ? ――といったイマジネーション全開。
まるでムービー・チャンネルをキテレツにザッピングさせたような、
風景のキレ、言葉のキレ、感情のキレは半端ない。
しかしここまでだったら彼の才能を考えれば想定内の内容だっただろう。
今作が彼らの作品の中で特別なものとなったのは、そんな1曲1曲の<短編>のデキを越えて、
全12曲を集めたとたん全体が1本の<長編小説>としてストーリーが流れ出す、そんな部分にあるのだから。
田中「……そう聞こえてくれたら嬉しいですね。結果的ではあるんだけど、
ガチッとストーリーが組み上がった点で、これまでのアルバムとは全然感触が違うのかもしれません」
そのストーリーとはどういうものか? ヒントはもちろん『真昼のストレンジランド』。
そこから先は、みなさんの解釈にお任せしよう。
今ここで言えるのは、これは人が生きることに正面から向き合った必読の1本、ということのみである。
■NEW Album『真昼のストレンジランド』……1/19 on sale!
SONG LIST
01.Silverado
02.This town
03.ミランダ(Miranda warning)
04.Neo Burlesque
05.おそれ
06.Sanctuary
07.Dry November
08.真昼の子供たち
09.411
10.夏の逆襲
11.ピカロ
12.風の歌
■LIVE…GRAPEVINE tour 2011
3/05(土) 横浜BLITZ
3/09(水) 浜松窓枠
3/10(木) 神戸WYNTERLAND
3/12(土) 松山SALONKITTY
3/13(日) 岡山CRAZYMAMA KINGDOM
3/18(金) 広島クラブクアトロ
3/19(土) 福岡DRUM LOGOS
3/21(月・祝) 熊本Be-9 V1
3/24(木) 仙台darwin
3/25(金) 盛岡CLUB CHANGE WAVE
3/27(日) 札幌PENNY LANE 24
3/31(木) 高崎club FLEEZ
4/02(土) 長野CLUB JUNK BOX
4/03(日) 富山club MAIRO
4/08(金) SHIBUYA-AX
4/10(日) 新潟LOTS
4/15(金) 名古屋ダイアモンドホール
4/16(土) なんばHatch
4/23(土) 新木場STUDIO COAST
※詳細はHPにて
■PROFILE…GRAPEVINE(グレイプバイン)
田中和将(Vo.&Gt.) 西川弘剛(Gt.) 亀井亨(Dr.)からなる日本屈指のロックバンド。
MARVIN GAYEの“I heard it through the grapevine”からバンド名を名づけ、
セルフ・リリースのカセット・テープが話題となり97年9月、ミニ・アルバム『覚醒』でデビュー。
記事内容:TOWER 2010/12/20&2011/1/05合併号より掲載