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インタビュー

JANETTE BECKMAN

 

被写体の鼓動をドキュメントするジャネット・ベックマンの世界

 


Photo by NATSUMI ARIMA

 

ミュージシャンや熱狂的なファンなど、30年以上に渡り音楽シーンを撮り続けてきた女性写真家。それがNYを拠点に活動するジャネット・ベックマンだ。音楽とは切り離せないファッションにも焦点をあて、リアルさを追求してきた彼女の写真。時代の空気だけではなく、人の生き方をも伝わってくる。そしてレザーブランド『Schott』の撮影をきっかけに、日本でも企画展が実現。開催期間中に来日していた彼女から、音楽との繋がりについて話を訊いた。

――まず、70年代にロンドンでパンク・シーンを撮られていますね。音楽を撮りはじめた過程を訊かせていただけますか?

「絵描きを目指して美術の専門学校に入ったんだけど、途中で写真のほうが良くなって3年間勉強したの。卒業した後はカレッジで写真を教えながら、時間を見つけて撮り続けたわ。それから『Sounds』っていう音楽雑誌にいままでの作品を見せたら、〈今日撮影に行ってきて〉って言われて。スージー・アンド・ザ・バンシーズの撮影をすることになったの。それがロック系の仕事としては初めてよ」

――そしてロンドンで数多くのアーティストと関わるなか、82年にはNYに拠点を移したそうで。

「もともと友人がNYにいたから、遊びに行ったの。その時友人の自宅近くのアパートに空室があって、しばらく滞在することにしたのよ。すでにポリスとかいろんな写真を撮っていたし、アメリカのレコード会社からも仕事が来るかと思ったんだけど……。作風が合わなかったみたいで、まったく話がなかったわ。でもしばらくするとヒップホップが出はじめて、イギリスの雑誌社からランDMCの撮影依頼が来たの。私にとってヒップホップは〈新しいパンク〉だったからどんどん好きになっていったわ。仕事もヒップホップ関係が増えたから、NYに住むことにしたの」

――常に音楽と強い力で、繋がってきたのですね。では、ベックマンさんにとって、音楽を撮り続ける魅力とは?

「音楽の写真を撮るということは、無料でライヴを見られるチャンスがあるでしょ。それももちろん魅力だし、いまこの瞬間にしか見られないところをカメラに収める。実際の目やレンズを通して見ながら、良い場所を選んで撮るというのが魅力的。好奇心が旺盛だから自分にすごく合っていると思う」

――ミュージシャンだけでなく、オーディエンスやファッションにも注目した写真もたくさんあって。まさに時代の一瞬一瞬を切り取っているように感じました。

「自分が表現したいことをわかってもらえて嬉しい。作り上げられたものじゃなくて、その瞬間のその時を撮りたいの。たとえ被写体の耳から木が生えていても、けっして驚かないわ。本当の姿なのであれば撮ってみたいし。あと人の持っている要素を、写真の中に上手く表現したい。何をしている人で、いま何が起こっているのか。ドキュメンタリーのように、写真で伝えることが重要。今回NYで行なわれた『Schott』の撮影も、モデルが持つ雰囲気を出すことを意識したわ」

 

 

――『Schott』の写真は、ダンサーやDJなどがモデルになったとか。撮影時のエピソードがあれば教えてください。

「DJの撮影のときに、〈良い場所があるから〉ってDJがビルの屋上に連れて行ってくれて。スタッフ12名くらいでセッティングをして、ターンテーブルも用意したの。でも撮影直前に、ビルの下にパトカーが来てしまって。みんなで焦って逃げたわ(笑)。あとスケートボーダーとBMXライダーの写真はスケートパークで撮ったの。撮影時にはもう閉鎖されていて、警察に頼んで開けてもらったのよ。自分たちが最後に使ったことになったから、深く思い出に残っている」

 

【ジャネット・ベックマン】ロンドン生まれの写真家。作品集としてはこれまでに「Made In The UK: The Music Of Attitude」「The Breaks: Stylin' And Profilin'」を刊行。ポリスやスクイーズ、ミニストリー、グランドマスター・フラッシュ、EPMD、ギャング・スターらのジャケット撮影でも知られる。

 

▼ジャネット・ベックマンがジャケット撮影に関わった作品を一部紹介。

左から、ポリスの80年作『Zenyatta Mondatta』(A&M)、ジャスト・アイスの87年作『Kool & Deadly』(Fresh)、ウルトラマグネティック・MC'sの88年作『Critical Beatdown』(Next Plateau)、EPMDの88年作『Strictly Business』(Priority)、M.I.A.の2007年作『Kala』(XL)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年12月24日 16:22

更新: 2010年12月24日 16:22

ソース: bounce 327号 (2010年11月25日発行)

インタヴュー・文/松坂 愛