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インタビュー

quasimode 『Magic Ensemble』

 

2011年、最初の魔法はどこにある? フェス出演などを通じて幅広いリスナーを踊らせ、酔わせてきた彼らが、過去最高に挑戦的な一枚で最高峰を更新するぞ!!

 

ジャパニーズ・クラブ・ジャズ・バンドの代表格、quasimode。だが、彼ら自身は実はそうした〈クラブ・ジャズ〉というレッテルに違和感を覚えるそうだ。ひとことでジャズと言ってもそのなかにはいろいろ細かい分類がある。ただ、その分類がジャズ・ファン以外から見るとわかりづらさや取っ付きにくさを生むこともあり、〈クラブ・ジャズ〉や〈リアル・ジャズ〉という垣根がジャズの門戸を狭めてしまう危険性もある、ということを踏まえたうえでの意見だろう。確かにクラブ・ジャズを出発点とし、〈踊れるジャズ〉をテーマにクラブ中心の活動を行ってきた彼らだが、そうした世界は3作目『SOUNDS OF PEACE』ですでに確立させている。その後メンバー・チェンジを経てEMIに移籍してからはクラブ・ジャズからさらに飛躍し、普段あまりジャズを聴いたことがない人にもジャズの楽しさを知ってもらおうという活動を行ってきた。そうした意欲の表れが、4作目『daybreak』に収められたダン・ハートマンのディスコ・クラシック“Relight My Fire”カヴァーだったのである。そして、その『daybreak』から約1年、通算5枚目のオリジナル・アルバム『Magic Ensemble』が完成した。表題は〈魔法の楽団〉とでも解釈できるだろうか。

「僕らの手に掛かればジャズをきっかけにその世界はどんどん広がっていく。ジャズを狭い世界に閉じ込めるのではなく、日常に溶け込んだポップスのようにステイタスを引き上げたいと常々思っているんです。だから踊れるジャズというテーマはそのままに、今回はよりポップさを追及したアルバムになってます。メロディー然り、リズム然り、4人でとことん議論して練り上げました」(平戸祐介、ピアノ/キーボード)。

なかでも、SOIL&“PIMP” SESSIONSのタブゾンビがトランペットで参加したローリング・ストーンズ“Sympathy For The Devil”のカヴァーは、ジャズの外側にいる人へ向けたquasimodeのメッセージとなるだろう。

「あえてジャズやブラック・ミュージックではない曲を選びました。quasimodeはジャズ・バンドですけど、もともと僕の根底にはロックがあって、ライヴはもうロック・コンサートのノリでやってます。そんなquasimodeの熱いところを表現したかった。もちろん僕らの芯にあるジャズはブレていませんが、でもアルバムごとにいろいろ新しい試みにもチャレンジしていて、前回は“Relight My Fire”でディスコを採り入れたサウンドに挑戦しました。今回はそうした幅がより広がり、ロック、ヒップホップ、レゲエといろいろな要素があります」(松岡“matzz”高廣、パーカッション)。

ヒップホップならヒューマン・ビートボクサーのAFRAが参加した“Whisky's High”、レゲエならこだま和文のトランペットをフィーチャーした“Seven Colors”。いままではジャズ界の重鎮ミュージシャン、また海外からのゲストを迎えることもあったが、今回の客演者はすべて日本人で、なおかつジャズに捕われない面々だ。ヴォーカリストにも、いわゆるジャズ畑ではない畠山美由紀とHanaHを起用。しかも、quasimodeにとって初となる日本語詞で歌っている。

「僕たちのライヴにもジャズを聴いたことがない人がどんどん来てくれるようになっていて、そんな人たちにとってジャズの入口となるのが歌ものであり、日本語の歌ならそれはさらに入りやすいものになる。日本人、日本語、メイド・イン・ジャパンという今回のこだわりにも繋がっていますね」(須長和広、ベース)。

そんな考えが表れた人選の一方、ジャズ界からは前述のタブゾンビと多方面で活躍するサックス奏者の菊地成孔が参加。初共演となった菊地については「録音はリズム隊とホーンを別々にしたのですが、編集で僕らの演奏に菊地さんのサックスを当て込むのではなく、フルでまるまる何テイクか吹いてもらって、その中から〈これ!〉と思ったものをそのまま使用しました。いろいろな人といっしょにやるのは刺激があっておもしろいし、勉強になりますね」(今泉総之輔、ドラムス)というくらい、会心のコラボとなった。

このようにヴァラエティーに富んだ内容だが、quasimodeのジャズの流儀はしっかり貫かれている。個人個人がソロ・プレイを競うのではなく、団結してバンド・アンサンブルやメロディーを重視する、それがタイトルの『Magic Ensemble』でもある。さらに、いままでは主に平戸と松岡が作曲を担当していたが、今回は須長と今泉も多くの作品で作曲を手掛けており、4人のメンバーががっぷり四つに組んだアルバムと言える。そして、豪華ゲスト陣に目を奪われがちだが、quasimodeの4人が作り出すグルーヴはより力強さを増し、またホーン・セクションなどサポート・ミュージシャンたちとの息もピッタリ。そうした点も含め、『Magic Ensemble』は聴きどころ満載のアルバムなのだ。

 

▼quasimodeの近作を紹介。

左から、2008年作『SOUNDS OF PEACE』(ジェネオン・ユニバーサル)、2009年のカヴァー企画盤『mode of blue』、2009年作『daybreak』、『Magic Ensemble』からの先行カットにあたる、quasimode初のシングル“Whisky's High”(すべてEMI Music Japan)。マイルス・デイヴィス“So What”のカヴァーなど、カップリング曲はすべてアルバムに未収録!

 

▼『Magic Ensemble』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

左から、AFRAの2009年作『Heart Beat』(rhythm zone)、畠山美由紀のベスト盤『CHRONICLE 2001-2009』(rhythm zone)、HanaHの2010年作『i'm not alone』(ユニバーサル)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年01月26日 18:02

更新: 2011年01月26日 18:15

ソース: bounce 328号 (2010年12月25日発行)

インタヴュー・文/小川 充