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インタビュー

映画『トスカーナの贋作/CERTIFIED COPY』 アッバス・キアロスタミ監督インタヴュー


アッバス・キアロスタミ
撮影:土肥悦子

アッバス・キアロスタミ監督、待望の最新作『トスカーナの贋作』は、国際的に著名なフランス人女優ジュリエット・ビノシュと、オペラ歌手として知られるものの、これが映画初出演のウィリアム・シメルの共演という、いかにもキアロスタミらしいひねりの利いたキャスティングを実現させた初の海外での長編映画。むろん物語にも彼ならではのひねりが見られる。イタリアのトスカーナ地方を訪れたイギリス人男性作家の講演から映画は幕を開けるのだが、本物こそ真の芸術作品であり、贋作はそのコピーにすぎない……との前提に疑問を寄せるその講演を聞きながら、自然と僕らはドキュメンタリー的なリアルさをフィクションに折り込む彼の作品の魅力を思い起さずにいられない。ただし、久々のキアロスタミ作品には、それ以前になかった幾つかの新しい要素も加わる。たとえば、頻繁に鳴り響く携帯電話とそれを通した会話、ビノシュ演じる母親の子どもが妙に意地悪であること……。

「現代生活に携帯電話は欠かせないし、それがまったく登場しない映画を探すほうが難しい。この映画の撮影現場でも、たとえば撮影中にビノシュの携帯が鳴り、彼女が相手と話すために姿を消す、といったことが何度かあり、要するに、映画で描かれたものと同じような光景が実際に起こっていたわけです。ただ携帯電話を使って映画をより豊かにする可能性もあると思う。私の映画では、これまでさまざまなサウンドを使ってフレーム外の出来事を暗示してきました。目の前で誰かが携帯電話で会話をしている。誰と話しているのかさえ私たちにはわかりませんが、その様子を映すことで、キャメラの前で語られる物語だけでなく、フレームの外でもまた別の生活が存在する事実が示される。私の映画に出てくる子どもが意地悪だとおっしゃいますが、あれでも手加減したつもりで、実際の子どもはもっと意地悪でしょう(笑)」

子どもは大人のコピーであるといえないだろうか。

「確かにそうですね。親の育て方でコピーをだめにしてしまう可能性がある。ただ、人間には特殊な能力があります。今あなたは私の言葉をメモしていますが、そのオリジナルをもとに後から清書し、原稿にするはずです。つまり、オリジナルを書き直すことで豊かにする行為こそ、人間にとってのコピーであるかもしれない」

初対面と設定されていたはずのビノシュとシメルがいつしか長年連れ添った夫婦であるかのような会話を交わし始め、僕らを積極的な意味で困惑させる。しかし、そもそも2人は俳優であり、そうした複雑な関係性の推移全体が演技なのだ。本物と贋物、現実と虚構といった異次元が混交され、真偽がいずれともつかず宙吊りとなったまま、そのあわいからの〈物語〉の生成プロセスを目撃すること……。『トスカーナの贋作』はキアロスタミならではのひねりの利いた大人のラブストーリーである。

映画『トスカーナの贋作/Certified Copy』

監督:アッバス・キアロスタミ 
主演:ジュリエット・ビノシュ/ウィリアム・シメル
配給:配給:ユーロスペース(2010年 フランス・イタリア合作)
◎2月19日(土)より、ユーロスペースにて公開!(全国順次)
©Laurent Thurin-Nal / MK2
www.toscana-gansaku.com

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年02月19日 19:04

更新: 2011年02月21日 11:10

ソース: intoxicate vol.90 (2011年2月20日発行)

interview & text:北小路隆志