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インタビュー

近藤嘉宏

ベートーヴェンはメッセージ性があり、説得力がある

近藤嘉宏が2009年からスタートさせたベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲録音という大きなプロジェクトは、親友であるギタリストの鈴木大介と飲みながら話をしているときに生まれた企画だ。2008年暮れのことで、当時近藤嘉宏はしばらく体調を崩して存分に演奏できなかった時期をようやく乗り越え、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第17番《テンペスト》を弾き始めていたころ。それを聴いた鈴木大介が、「いまだよ。病気をしたことによってベートーヴェンの苦悩が理解できるし、以前の近藤くんの演奏とは違うものが聴こえてきた。ピアノ・ソナタ全曲録音をやるべきだよ。僕がディレクションを全部担当するから」といってくれた。

「鈴木くんはベートーヴェンをこよなく愛し、さまざまな作品を聴き込んでいる。ピアノ作品にも造詣が深い。そんな彼が背中を押してくれたため、やってみようと思ったんです。それから楽譜をより深く読み込んで入念な準備をし、ベートーヴェンが大変な人生を送っていた中期の作品から録音を始めました。それから初期に移り、最後は後期に行くという方向性でふたりの意見が一致しました。楽器はベヒシュタインをホールに運び込み、マイクは鈴木くんの考えでピアノにくっつきそうなほど近くしています。音のこまやかなニュアンス、音色の変化や輪郭などを重視し、しっかりとらえるためです」

ベヒシュタインのピアノは、昔は音量が足りないといわれた時期もあったが現在は改良され、明るく落ち着いたユニークな音で、表現のこまやかさが出るという。

「どこか土っぽい感じがします。音の立ち上がりがよく、音が重なると意味のある音が生まれる。ブラームスやリストが音を重ねて作曲したことがよく理解できますね」

今回は第3弾のピアノ・ソナタ第21番《ワルトシュタイン》、第23番《熱情》、第24番と、第4弾のピアノ・ソナタ第19番、第20番、第22番、第25番《かっこう》、第26番《告別》、第27番がリリースされる。

「単発でピアノ・ソナタを弾いていたときには見えなかったものが、全曲に取り組むことによって徐々に見えてくる。たとえば《熱情》ですが、音楽の流れや効果、重要視されている箇所など全体を俯瞰する形でとらえることができる。立体的に見えてくるんです。ベートーヴェンは抽象的な表現や時代を先取りしていた奏法もありますが、それらが弾き込んでいくうちに鮮明に理解でき、ベートーヴェンの世界観までもわかるようになってくる。僕は高校2年のときにソナタ第32番から弾き始めました。ケンプの録音に魅了されたからです。革新的な作風に一気に魅せられ、以後さまざまなソナタを弾いてきました。ベートーヴェンは1曲として似たものがない。各々が個性的で内容が濃密、メッセージ性があり、説得力がある。弾いていると達成感に満たされます」

とりわけ各作品の緩徐楽章が美しい。ぜひ一聴を!

近藤嘉宏コンサート情報

『大阪交響楽団 名曲ア・ラ・カルト2011』
3/12(土)大阪文化パルク城陽

『小松市ピアノ協会20周年記念演奏会 第11回新人演奏会&近藤嘉宏ピアノコンサート』
3/26(土)石川ところこまつ芸術劇場うらら大ホール

『近藤嘉宏 plays リスト&ショパン 』
3/27(日)札幌コンサートホール Kitara 大ホール

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年02月25日 18:13

更新: 2011年02月25日 18:24

ソース: intoxicate vol.90 (2011年2月20日発行)

interview & text : 伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)