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インタビュー

RHYMESTER 『POP LIFE』

 

What's the matter with your life? 過去最高のポピュラリティーを得た『マニフェスト』から1年、高まる期待に応える『POP LIFE』は、どこまでも、このうえなく、果てしなくRHYMESTERな一枚だ!

 

 

 社会問題から生活レヴェルのストレスまで、ネガティヴなトピックも含むどこか雑然としたこのアルバムが、なぜここまで人を元気にさせるパワーを持ち得たのだろう? 前作『マニフェスト』からほぼ1年というキャリア最速ペース、そして初の連作仕様となったRHYMESTERのニュー・アルバム『POP LIFE』が到着した。

 

同じことを違うやり方で歌ってる

――去年の9月、“Walk This Way”が出た時点ですでに「人生とか生活とか、そっちの匂いのするアルバムになるんじゃないかって気はする」って言ってたよね。

MUMMY-D(MC「〈ライフ〉とか〈生活者〉みたいな感じ、とは言ってたんだよね。でもそれもぼんやりとした気分でしかなかったから、なんで今回は生活者としての目線から歌いたかったのか、自分でもよくわかっていなかったかも」

宇多丸(MC「“ほとんどビョーキ”のコンセプトを思いついたときに、病気なんだけどこうやっておもしろく歌うとか、これだったら〈ライフ〉でいけるんじゃねぇか?って思ったんだよね。各論を歌えばいいんだよ!って」

――そんななかで見えてきたアルバムのテーマは?

MUMMY-D「いいこともあるし悪いこともあるけど、ひっくるめて〈POP LIFE〉だよね。そういう生活のなかの喜怒哀楽って〈人生というハードな長き道〉みたいな取り方もできると思うのね。だけどあえてそれを〈POP LIFE〉って言っちゃいたかった」

――アルバムのヴィジョンが明確になってきたことで、それぞれ越えなくちゃいけないハードルもはっきりした?

MUMMY-D「例えば〈俺がラップではなく歌っちゃう〉とか、これまでNGとしていた事項をひとつひとつ外していこう、みたいなことは考えてたかな」

DJ JIN(DJ「ミッドテンポでラップが立つようなものを作ってほしいってリクエストは最初にもらっててさ。だから、そこをめざして俺なりにベストと思えるものをどんどん投げていって。『マニフェスト』のときもそうだったんだけど、ほかのプロデューサーの曲を膨大な量聴くと、じゃあそのなかで俺はなにができるんだろう?みたいなことを考えるんだよね。自分のオリジナリティーを踏まえながら、RHYMESTERがさらに良くなれればってところで作っていくっていうか」

宇多丸「アルバムの全体像を想像しながら作るってところかな? 曲数がそんなに多くないアルバムだとしたら、無駄な場面を入れてる暇はないからさ。あとは、〈これはこないだ作ったこの曲に対する回答だ〉とか、論理性とか曲と曲の磁力を意識しながら書くとかね」

――“Walk This Way”が出たころ、Dくんはアルバムの内容について「方向性が絞られたアルバムにしたいっていうか、みんながいちばん好きなバランスで曲が並んでるアルバムにはしたくないと思ってる。悪く言うと同じような曲が並んでるアルバムっていうか、カラーがはっきりしてるアルバムにしたい。聴いた人が若干の物足りなさを感じるぐらいで次にいきたい」とも言ってる。このへんの目標は達成された?

MUMMY-D「うーん、達成ってことでは8割ぐらいかな? 別の意味でいいアルバムになった部分もあるし」

宇多丸「でも同じような曲が並んでるっていうのはあると思うな。だって、“そしてまた歌い出す”と“Born To Lose”と“Walk This Way”は、同じことを違うやり方で歌ってるってだけだからさ」

MUMMY-D「それはホントそう。そういう意味ではね、本当に同じ気分で歌ってると思う。だってリリック帳を見て、これってどの曲の歌詞だっけ?って思っちゃったときがあったもんね(笑)」

宇多丸「“ザ・ネイバーズ”と“余計なお世話だバカヤロウ”にしても〈敵〉ってテーマで共通してるしさ。人生のいろんな局面を違う切り取り方で歌ってるわけだから、実はまったく同じ場面のことを10曲にして歌ってるだけかもしれないよね。問題提起と解答がすごく緊密になってるというか、曲同士の磁力がものすごく強いアルバムなんだよ」

 

ろくでもない日常は続く

――そのへんの話を踏まえて、なぜ〈ライフ〉や〈生活者〉を歌おうと思ったかを改めて訊いておこうかな。

MUMMY-D「なんだろうなあ……ヒップホップを本当に俺たちのものにするために必要なことなんだよな。聴き手が一般人ならこっちもエブリデイ・ピープルの立場から発していかないといけないし、そもそも自分だってエブリデイ・ピープルだからさ。やっぱりラッパーはいつまでもそうあるべきだって思ってるからかな? ヘッズじゃなくてもこれは俺らの音楽だって思えるものになったとき、初めて日本人が日本人のためのヒップホップを完成させたってことになると思うし」

宇多丸「ヒップホップって本当はそういうものなんじゃない? 人々の生活の、地べたレヴェルの目線……ゴキブリ野郎のうじゃうじゃした愚痴が人々を勇気づけるっていうか、日常の景色を変える武器たり得るっていうかさ。突き詰めていけばそういうことになるんだよ。で、今回はその機能に特化させてみようぜっていうか。リアル・ミュージックってそういうことじゃないの?」

MUMMY-D「今回は受け手がどういう気分になってほしいかみたいな、曲の意志がはっきりしてるっていうのはあるよね。これを聴いて元気出してほしいとか和んでほしいとか考えてほしいとか、曲の効能がはっきりしてる」

――過去のRHYMESTER作品にはない、『POP LIFE』の独特の趣きはそのへんからきてるのかもしれないね。

MUMMY-D「いままでのアルバムってカラーは違うんだけど、共通してるのはそれぞれが〈まとめ〉なんだよね。その時期までのまとめ。今回は〈まとめない〉ってことをやりたかったのかも。全力を出し切らないっていうとアレだけど、そうするとさらにカラーがはっきりしていくのかなって。これまでもいろんなカラーのアルバムを作ってきたけど、結構ちゃんとしてるっていうか、ラストに向かっていく感じとかだいたいパターンがあったりして。そういうのを一回崩したかったのかもね」

 ――普通に考えれば“Walk This Way”で終わりにするのがキレイだと思うんだけど、そのあとに“余計なお世話だバカヤロウ”をもってきてるでしょ。そんなところにこのアルバムをどんなふうに受け止めてもらいたいかが表れてるような気がするんだよね。

宇多丸「“Walk This Way”で終わると論理的な流れは完璧なんだけど、なんか小さくまとまってる感じがするんだよな。もうちょっと開けたっていうか、だらしない終わり方にしたかったんだろうな。“余計なお世話だバカヤロウ”が最後にくることによって、その先にまたろくでもない日常が続く感じを予感させるんだよね」

MUMMY-D「そうそうそう、まさしくそれ! あー、やっぱこれか俺の毎日は!って(笑)」

――この曲で終わることによってアルバムがすごくチャーミングになった感じはあるな。

宇多丸「“ほとんどビョーキ”とか“余計なお世話だバカヤロウ”とか、ネガティヴなことを歌ってるのに元気になるっていうのはヒップホップらしいよね」

 

▼RHYMESTERの近作。

左から、2010年作『マニフェスト』、同年のライヴDVD「KING OF STAGE Vol.8 マニフェスト Release Tour 2010 at ZEPP TOKYO」、『POP LIFE』からの先行シングル“Walk This Way”(すべてNeOSITE)なお、シングルのカップリング曲“トーキョー・ショック”と“マルシェ”はアルバムに未収録ですよ!

 

▼RHYMESTERのメンバーが参加した『マニフェスト』以降の2010年作を一部紹介。

左から、宇多丸の著書「ザ・シネマ・ハスラー ~ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル 編」(白夜書房)、宇多丸が参加したDENの『ストリート文学』(LEGENDARY inc.)、MUMMY-Dが参加したZeebraのシングル“Butterfly City”(ARIOLA JAPAN)、Pragueのシングル“Distort”(キューン)、Soweluの『Love & I. ~恋愛遍歴~』(rhythm zone)、MUMMY-Dのプロデュースによるテーマ曲を収めた同名イヴェントのコンピ『BEAT CONNECTION』(ソニー)、DJ JINが属するbreakthroughのミックスCD『Freewheeler mixed by breakthrough』(KSR)

 

▼『POP LIFE』に参加したプロデューサーの作品を一部紹介。

左から、DJ WATARAIの2009年作『RE:MIX:ER』(Knife Edge)、DJ HASEBEの2010年作『SOMETHING WONDERFUL』(ワーナー)。両名の他にも、AKIRA、SKY BEATZ、BACHLOGIC、そしてDJ JINが各曲のプロデュースを手掛けています!

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掲載: 2011年03月03日 19:05

更新: 2011年03月03日 19:05

ソース: bounce 329号 (2011年2月25日発行)

インタヴュー・文/高橋芳朗