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インタビュー

LIL 『Synchronize』

 

トラックメイカーのTSUGEとヴォーカルのucioによるLILは、2006年にジャジーなハウス系のユニットとしてインディー・デビューし、専門店のハウス・チャートでNo.1を奪取している。上質なトラック、美しくソウルフルなヴォーカル——そのまま順調に成長しても確固たる評価を得ることになっただろう。しかし、あらゆる音楽を呑み込み、大きなうねりを生みつつあった〈エレクトロ〉に出会うことで、2人の歩みは変化する。その喜びや衝撃が音になったのが、配信シングル“me, too”やメジャー・デビュー・ミニ・アルバム『LIPS IN LUSH』だ。ヘヴィーなディストーション・シンセやハンマーのようにぶん回される4オクターヴの歌声、プライマルな痛快さでユニットは大きな評価を得て、ライヴやコラボでさらなる進化を果たす。その結晶がファースト・フル・アルバム『Syncronize』というわけだ。

「アルバムを作る前に配信楽曲でコラボをやっていたので、異種格闘技感は表れていますね。あとはメジャーとして多くの人に伝えたい。そのために自分の持つさまざまな音楽的なルーツとメロディーにこだわって、楽曲にすべてをつぎ込みました」(TSUGE)。

「エレクトロ(のブーム)がひと段落してみんなが好きなことをやるようになって、もともと持っているものと向き合えたんだと思います」(ucio)。

そうした2人の思いが新作では大きな進化と共に爆発している。バウンシーなブレイクビーツとうねるベースラインが印象的な“SURF MIND”、エアリーなシンセが80sの空気を醸し出す“Girl in the mirror”、ローリング・ドラムの上を挑発的なヴォーカルが躍る“Just a way”、疾走感溢れるロッキンなドラムンベース“Beach!!!”、アシッドやトランス、オールド・スクールなエレクトロを切なく感動的な歌モノに落とし込んだ本作の集大成とも言える“Get Over”——トラック、メロディーは前作とは比較にならないほど多様性を増し、初期LILの持っていた上質なテイストと融合。また無軌道だったucioのヴォーカルはさまざまな感情を巧みにコントロールし、聴き手のハートを射抜くだろう。また、WISEが参加した“Watching you”では〈dropしても諦めなければ無駄じゃない〉とキッズの背中を押し、環ROYとの“METRO-L”では乱反射するレイヴィーなシンセに乗って〈どの道この道同じ不安なら突き進んでゆこう〉と、選択と決断を促していく。恋の話ではなく、不安化する社会でストリートを生き抜くキッズに向けて真摯で熱い言葉を投げかけるのだ。ポップ、ストリート、エレガンス——LILの黄金率が確立された作品である。

「“Watching you”は爽やかな曲の印象を壊さずにストリート・カルチャーを体現できるWISEさんにお願いしました。メディアって夢を持てなくなることばかり報道するけど、間違いや失敗があっても萎縮せず思い切りやりたいなって。“Girl in the mirror”もそうですけど、〈もっとあなたの色を出していいんだよ〉って。それであたしは救われたから」(ucio)。

他にも硬質でミニマル、そして覚醒的なインスト“my favorite song”や、カーディガンズの名曲“Carnival”をエレクトロに染め上げるなど遊び心も忘れない。多彩なトラックメイクとメロディアスなヴォーカルで魅了しながら熱いメッセージを波紋のように広げる本作には、ポップ・ミュージックの魔力にリーチした瞬間がパッケージされている。〈メジャーで闘うユニット〉のプライドが漲っているのだ。

「例えばいま人気のK-Popも、クォリティーがすごく高いですよね。LILも負けないぐらいのものを作りたいって気持ちでやっています」(ucio)。

「これからも良いメロディーにはこだわりたいですね、ポップさにアンダーグラウンドなエッセンスを入れながら新しいサウンドスタイルを貫いていきたい」(TSUGE)。

オーヴァーグラウンドを視野に入れる2人のモチヴェーションはさらなる高まりを見せ、爆発するだろう。リスナーと共振する『Syncronize』はどうやらその狼煙となりそうだ。

 

PROFILE/LIL

ucio(ヴォーカル)、TSUGE(プログラミング/DJ)から成るユニット。2005年に結成され、翌2006年に『Into the Lil'』を発表。続く2007年には『Close to the Lil'』、2008年に『Little Ave.』と作品をリリースしつつ、都内のクラブを中心にライヴ活動も精力的に行う。また2009年4月の“me, too”を皮切りに、約2か月おきに計4枚の配信シングルを発表して話題となる。2010年3月にミニ・アルバム『LIPS IN LUSH』でメジャー・デビュー。その後、環ROYや雅-MIYAVI-をフィーチャーした配信シングルをリリース。今年に入ってWISEを招いたシングル“Watching you”も注目を集めるなか、このたびファースト・フル・アルバム『Synchronize』(EMI Music Japan)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年03月07日 21:26

更新: 2011年03月07日 21:27

ソース: bounce 329号 (2011年2月25日発行)

インタヴュー・文/佐藤 譲