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インタビュー

地引雄一

テレグラフと地引雄一の30年

昨年5月からスタートした【テレグラフ・レコード】の再発プロジェクトが好評だ。昔からのマニアックなファンだけでなく、若いリスナーからも驚きの声が上がっているという。リリース点数もこの2月には既に20タイトル以上になった。

【テレグラフ】といえば、80年代日本のインディーズ・ムーヴメントに先鞭をつけた伝説のレーベル。81年に設立され、87年に活動休止した。時にカメラマン/評論家としても活躍していたレーベル運営者の地引雄一こそは、シーン盛衰のひとつひとつを現場で直接体験してきた、J−インディーズのまさに生き証人と言っていい。今回のプロジェクトに際し、彼の胸に去来するものは?

プロジェクト直接のきっかけはごくシンプル。ディスクユニオンからの提案だったという。

「リザードやグンジョーガクレヨン、のいずんずりなどをユニオンの若い社員たちが聴いて、80年代日本にこんな音楽があったのかとか驚いたらしい。現在の英米ポスト・ロック系作品にも通ずる感覚がある、なんて声もあったり。実際、僕自身もそう思っていたし。たとえばEP-4なんて、現在のROVOなどともダイレクトでつながっていると思う。で、昔の作品を懐かしむのではなく、今の世代に聴かせたいと思って、オファーを受けた」

果たして、今回改めてすべて聴き直した地引自身、テレグラフ作品の先進性、同時代性に驚いたという。

「10年ぐらい前までは、80年代の音楽って、ちょっと古臭いという見方が大勢だったけど、最近は逆に新しいと受けとられるようになってると思う。いや、むしろ、最近の音楽以上に新しく、実験的なものが多い、みたいな。僕自身、あの時点でこんなところまで行ってたのかと、改めて感じた。新たな発見だった」

というわけで、最初に出たのが、2枚組の『ゴジラ・スペシャル・ディナー』。東京ロッカーズのムーヴメントの中でミラーズのヒゴヒロシを中心に設立され、80年代インディーズ・シーンの先駆けとなった日本初のパンク・レーベル【ゴジラ・レコード】が78〜79年に出したシングル盤(Mirrors、Mr.Kite、Flesh他)音源集だ。

「元々テレグラフは、東京ロッカーズ直系の音楽を扱っているという意識があった。つまり、フリクションやリザードなどの流れ。でも、次第に音の幅が広がってゆき、僕自身、一つのレーベルとしてまとめきれなくなった感もある。そして80年代半ばからは、インディーズがブームになり、客層もどんどん若くなっていった。とりあえずカッコ良くてキャーキャー騒げるような見た目重視になっていく中で、テレグラフは徐々に息詰まっていった。最初の頃は、僕が面白いと思うバンドもそこそこ売れ、それなりに評価されていたんだけど、その頃からだんだん市場のニーズと僕がいいと思うものがズレていった」

宝島社が設立した【キャプテン・レーベル】が盛り上がり、YBO²の故・北村昌士の【トランス・レーベル】に黒衣のギャルが群れ集い、駄目押しで「イカ天」が人気沸騰した80年代後半、【テレグラフ】は活動を停止した。

「メジャーが名前を隠してインディ・レーベルを始めれば、若いミュージシャンたちも当然そっちに行くわけで。僕は別にレコード会社の社長になりたかったわけじゃなく、日本のロック・シーンを面白くするために必要なレーベルだと思って始めたわけだし、もう自分がやる必要もないなと。負債も1千万を超えたので、やめた(笑)」

しかし、シーンにおいて【テレグラフ】が果たした役割について、彼には確固たる自負も、当然ある。その最たるものが、流通システムの確立だ。70年代に登場した〈自主制作レコード〉というものが〈インディーズ〉なる新ジャンルとしてある程度組織化されるベースと道筋をつけたのは、間違いなく【テレグラフ】だったと思う。

「【ピナコテカ】(吉祥寺マイナーが設立したレーベル)などと一緒に、懸命に流通システムを確立した。全国の輸入レコード屋などに直接コンタクトすることから始め、最終的には50店舗ほどに卸すまでになって。あと、安いレコーディング・スタジオとかプレス会社とかも、手探りで開拓したし」

今回のプロジェクトを通じて、EP-4の佐藤薫など、長いこと音信不通だったミュージシャンたちと再会できたことも、地引にとっては大きな喜びだったという。そして、そのEP-4は、これを機に活動再開も期待されている。とりあえずは『ケース・オブ・テレグラフ2011』と題された復活イヴェント(4月2日、3日/高円寺HIGH)。リザードやアマリリス他、【テレグラフ】関係のバンドが多数出演する注目のライヴだ。

誰でも音楽を作れ、ネットによってリスナーとダイレクトにつながれる現在こそは、まさに本当のインディーズ時代とも言える。【テレグラフ】の革新性が、今ここに、いかに地続きなのか、自らの耳で確かめる時が来た。

※編集部註
4/2(土)3(日)に高円寺HIGHで開催が予定されていた『ケース・オブ・テレグラフ 2011』は震災の影響により開催延期。代わって、4/2(土)に出演可能なミュージシャンが集まり、緊急企画「CASE OF TELEGRAPH extra」の開催が決定している。出演者その他の詳細は以下の通り。

CASE OF TELEGRAPH extra

2011年4月2日(土)18:00開場 / 18:30開演
会場:高円寺HIGH
http://koenji-high.com/
出演者:恒松正敏グループ、AUTO-MOD、コンクリーツ、モモヨ(リザード)、杉林恭雄(くじら)、佐藤薫(EP-4)  18:00 OPEN  18:30 START ¥2000(+1 drink代)
この日の収益金は東日本大震災の被災地に対する義援金として寄付されます。

※4/3はアマリリスのワンマンLIVEとなります。

テレグラフ・レコード再発シリーズ『テレグラフ・コレクション』発売済みタイトル


カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年03月28日 21:33

更新: 2011年03月28日 21:50

ソース: intoxicate vol.90 (2011年2月20日発行)

interview & text : 松山晋也