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インタビュー

林正樹

ECMへの回答!? 個性派揃いのカルテットのデビュー作

菊地成孔&ペペ・トルメント・アスカラールやSalle Gaveauでは、端正かつ上品なピアノで多くのリスナーを魅了してきた林正樹。彼のリーダー・バンド、林正樹STEWMAHNがファースト・アルバム『Crossmodal』をリリースする。

グループがスタートしたのは01年。異なるフィールドで活動する、全員が初顔合わせのメンバーが集って結成された。「このメンバーを組み合わせたキャスティングの能力は、自分でもすごいと思う」と林が振り返る通り、ジャズを共通言語としながらも、それぞれに異なる個性や出自を持った4名が揃った時点で、既にこのグループは特別な存在だったと言える。

林とはブラジル音楽のセッションで出会い、本作ではテナー・サックス、ソプラノ・サックス、フルート、ハーモニック・フルート、笛子、ディジュリドゥまで自在に吹き分けるオーストラリア出身のアンディ・べヴァン。日本の伝統音楽にも精通し、邦楽家とのセッションも積極的に行っているドラマーの堀越彰。そのキャリアをクラシックからスタートし、現在はジャズやクラブ・ミュージックまでこなす、コントラバスの西嶋徹。STEWMAHNというグループの音楽性が、〈ジャズ〉とひと括りにするには、余りにも雑多な要素が混合されたものであるのは、これらメンバーが多くのものを持ち込んでいるからだろう。

「本当に個性的なメンバーが集まった。個性的なんですけど、僕の曲の世界観を破壊しようっていう感じじゃなくて、広げてくれる。僕の音楽性を大事にしつつも、新しいものを見せてくれるんです。今回作ってみて、このメンバーですぐにでも次のアルバムが作れそうだと思ったくらい」

期待には応えるが、いい意味で予想は裏切ってくれる、ということなのだろう。透明感あふれるヨーロピアン・ジャズ風の楽曲にディジュリドゥのトランシーな響きが紛れ込んでいたり、西嶋のアルコが絶妙なアクセントとして機能したり、トリッキーな変拍子を多用したテーマが炸裂したりと、各人の演奏の見せ場は多い。「自分の音楽をジャズと言い切ってしまうのにはためらいがある」という林だが、むしろこの、なんでも飲み込んでしまう胃袋の強靭さこそがジャズ本来の雑多性を体現しているとは言えないだろうか。

ちなみに、熱心な【ECM】のファンでありコレクターでもあるという林。本作でも同レーベルのアイテムにも似た、残響の美しさを活かした音像を聴くことができるが、これをオーナーのマンフレート・アイヒャーが聴いたらどう思うか?という想像も膨らんでくる。

「実は、10年以上前にドイツにひとり旅に行ったときに、【ECM】のオフィスにいきなり行って、デモテープを渡したことがあったんです。それはなんの音沙汰もなかったんですけど、このCDは、届けられるならちょっと聴いてもらいたいですね。それはひとつの夢かもしれないです、自分の中での」

 『「Crossmodal」発売記念ライブ』
5/8(日)柏StudioWUU  ○6/1(水) 学芸大学 珈琲美学
出演:林正樹STEWMAHN:林正樹 Andy Bevan 西嶋徹 堀越彰

『林正樹ピアノ・ソロ』
6/4 (土)公園通りクラシックス

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年04月21日 19:15

更新: 2011年04月21日 19:22

ソース: intoxicate vol.91 (2011年4月20日発行)

interview & text : 土佐有明