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インタビュー

BIBIO 『Mind Bokeh』

 

 

「白黒の猫を飼っているよ。無類の猫好きなんだ。猫って不思議な生き物で、いっしょにいるとアイデアが湧くし、落ち着いた気分にしてくれるんだよね」。

猫好きで自然派、アコギの爪弾きとドープなビートを同時に愛する男——英国はウェストミッドランズ出身のスティーヴン・ウィルキンソンことビビオ(ユニット名は子供の頃に父親が釣りで使っていたルアーの名前に由来)は、フォークとヒップホップの合間を行ったり来たりする、何とも不思議な音楽性で知られてきた。

もともとはボーズ・オブ・カナダのメンバーに見初められたのがきっかけで2000年代半ばにデビュー。3枚のアルバムを発表した後、英国老舗テクノ・レーベルのワープと契約し、2009年に『Ambivalence Avenue』をリリースしている。多くの人々に認知されることとなった同作では、それまでのサウンドから一歩進み、より〈うた〉をフィーチャーしたものへと変化。そのようなアプローチは、ふたたびワープから発表されたこのたびの新作『Mind Bokeh』において、さらに深まっている。

「(歌への傾倒は)音楽と言葉を同じように愛する流れから生まれたことなんだ。この数年でもっと自信がついてきたから、前より自然に歌えるようになってきていると思う」。

確かに新作における彼の歌声は、少々おっかなびっくりだったいままでとは異なる〈確信〉を感じさせるものだ。また、そんな自信ゆえか、サウンドの幅にもいっそうの広がりが見られる。シン・リジィばりのハード・ロック・ギターが炸裂する“Take Off Your Shirt”から、ビリンバウをフィーチャーしたパーカッシヴな“K Is For Kelson”、サックスが鳴り響くメロウ・フュージョン系の“Feminine Eye”に至るまで、曲調のヴァリエーションは実に豊かだ。さらにはギターやMPCのみならず、「ブランデーグラス、ティーカップ、キャビネットの引き出し」といった日用品の奏でる音までもが楽器として使用されたのだという。

「もともと好んで聴く音楽のジャンルが幅広いし、何事にも挑戦するのが好きなんだ」。

そんな彼に、近頃クローズアップされつつある英国のダブステップ・シーンについて尋ねてみたところ、「たまに聴くけど、ほとんど同じ曲に聴こえるね」と率直な意見が返ってきた。

「UKというより、ロンドンで流行っているジャンルだと思う。僕はロンドンから出てくる音楽が一番だとは思わない。ビートルズやレッド・ツェッペリン、コクトー・ツインズ、スミス、ボーズ・オブ・カナダ、エイフェックス・ツインといった僕の好きなUKのアーティストはみんなロンドン以外の地方から登場してきた。殺風景な工業地帯からとびきり鮮やかで美しい芸術作品が生まれることもあるんだよ」。

ちなみにアルバム・タイトルの〈Bokeh〉とは日本語で〈ぼやけ〉や〈かすみ〉を意味する〈ボケ〉のことで、日本文化にも大きな関心を持っているのだとか。

「禅に興味があるんだ。あと、煎茶が大好きでね。いつか日本に行って、正しい作法で煎れられたお茶を飲んでみたいな。英国と日本って実は共通点があると思うんだよね」。

「道路の上の落ち葉一枚だってとても美しくなり得るんだ」と語る彼の、俳句の哲学にも通じる、慎ましくも誠実でチャレンジングな創作姿勢は、私たち日本人にも(いや、日本人だからこそ)深く共感できるものだろう。彼の頭のなかでは〈落ち葉〉と〈ダイヤ〉、〈アコースティック〉と〈エレクトリック〉、〈楽器〉と〈非楽器〉、〈日常〉と〈非日常〉、〈過去〉と〈未来〉といったものの間に明確な〈境界線〉が設けられていない。そして、境界がボカされているからこそ、彼の生み出す音はどこか懐かしく、同時にこんなにも新鮮に耳に響いてくるのだろう。

 

PROFILE/ビビオ

UKはウェストミッドランズ在住のサウンド・クリエイター、スティーヴン・ ウィルキンソンによるソロ・ユニット。ボーズ・オブ・カナダに見い出されてマッシュと契約し、2005年にアルバム『Fi』でデビューを果たす。翌年には2作目『Hand Cranked』をリリース。2007年にはクラーク“Ted”のリミックスで注目を集める。2009年の『Vignetting The Compost』を最後にマッシュを離れてワープと契約し、同年のうちに移籍作『Ambivalence Avenue』とリミックス・アルバム『The Apple And The Tooth』を立て続けに発表。以降はゴンジャスフィ、!!!、ローン、グラスカットらのリミックスを手掛ける。このたびニュー・アルバム『Mind Bokeh』(Warp/BEAT)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年05月10日 20:59

更新: 2011年05月10日 21:00

ソース: bounce 330号 (2011年3月25日発行)

インタヴュー・文/佐藤一道

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