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インタビュー

Bill Frisell

「もうすぐ60歳だし、やりたいことをすぐにやりたいんだ」

ビル・フリゼールといえば、最初は前衛/実験的なジャズ界で知られるようになったが、97年にブルーグラス畑の名手たちと作った傑作『ナッシュヴィル』以降、レパートリーの幅を広げ、フォークやカントリー、ブルーズといったルーツ音楽にも題材を求めた独自のアメリカーナ的な世界を展開してきた。その10数年の音楽の発展を本人はどう考えているだろうか。

「僕にとっては、それ以前から既に起こっていたことだと思う。僕の内部ではいつだって変化が起こっていて、アルバムはそれを記録するもの。そういうふうに考える方がわかりやすい。でも、確かに『ナッシュヴィル』は転機の作品だったね。だって、僕はおっかなびっくりだった。ナッシュヴィルに行くのも、彼らと演奏するのも初めてだったから。目を開かされる体験だったよ。自分のバンドとの演奏ではなかったから、いつもとは異なったふうに考えなくちゃいけなかった。あれは重要な瞬間だったよ。

でも、ある意味では毎日が進歩だから、その過程については自分ではよくわからない。毎日目覚めたら、目の前にはあらゆる音楽があるわけで、それに取り組むだけだ。そのことに終わりはないし、今の自分がどこにいるかを自分ではわからない。例えれば、大きな木の中にいるようなものだと思う。こっちの枝に登って、次はそっちの枝に登っても、その木そのものは同じ場所から生えている。僕にはそんな感じかな」

近年ビルはルシンダ・ウィリアムズやリッキー・リー・ジョーンズ、1月の来日時に数日のすれ違いとなったチップ・テイラーといった歌手のアルバムにも参加することが増えている。インスト音楽と歌詞のある作品で演奏するときの違いについて問うと、彼の演奏の秘密の一端が明かされた。

「インストを演奏するときも、多くの場合は頭の中に聞こえている歌声にインスパイアされている。だから、歌手との共演も、ある意味では同じだ。その歌声や言葉の響きにインスパイアされる。僕はギターを弾いているとき、ギターのことを考えているんじゃない。頭の中にはサックスや歌声、オーケストラのサウンド、時には車の往来の騒音が聞こえている。そういった想像力があって、たまたまギターがそれを実際の音にする楽器なんだよ。昨夜サム・クックの《ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム》を演奏したけど、彼の歌声が聞こえていたんだ」

さて、ビルのニュー・アルバム『ビューティフル・ドリーマーズ』はノンサッチからサヴォイ・レーベルに移籍しての第1弾となる。

「ノンサッチとは長かったね。20数年いた。素晴らしいレーベルだよ。でも、僕の望む速さで物事が進行しなくなった。最初の頃はもっと速かったけど、会社が大きくなって、今はすべてがもっと複雑になってしまった。僕にとって最も重要なことは頭に浮かんだ考えを即実行に移すことだ。実はもう新しいアルバムが出来上がっていて、3月に出るし、さらにもう1枚アルバムを7月に出す。だから、サヴォイから1年に3枚も出るんだよ。やりたいことを何でも自由にできることが重要だ。もうすぐ60歳だし、やりたいことをすぐにやりたいんだ」

新作は自作曲に、カーター・ファミリーやブラインド・ウィリー・ジョンソン、スティーヴン・フォスター、ベニー・グッドマンなどの曲を混ぜたビルらしい選曲で、ヴィオラのエイヴァン・カンとドラマーのルディ・ロイストンとのトリオでの録音である。

「この3人の組み合わせに特別な良いものがあるとわかったので、アルバムを作りたいと思った。ひとつには現実的なビジネス面での理由もあるんだ。ギターとヴィオラとドラムズで仕事をとろうとすると、多くの人たちは奇妙なトリオだという反応をするから、ほら、僕は真剣だよと示すためでもある(笑)。このグループのための音楽を作って、僕の他のグループとは異なった特別なものがあると知ってもらおうと考えたんだ」

エイヴァンもルディも長年の知り合いで、それぞれと他のグループで一緒にやってきた。

「エイヴァンとは20年ほど一緒にやっている。『カルテット』とか、以前のアルバムにも参加してくれた。彼はあらゆる音楽を勉強している。インドまで行って、インド音楽を勉強したし、ペルシア音楽も演奏する。いつも彼から学んでいるよ。ドラマーのルディは僕の育ったデンヴァーに住んでいた。随分昔に会ったんだけど、彼はツアーに出たくなかったから、一緒に演奏する機会はなかった。だけど、数年前NYに移り、ツアーにも出ると決心した。それから一緒にやりだした。2人とも長年の友人だから、何か特別なことが生まれるという予感があったよ。 前の週に3、4回のギグをこなし、そこで新曲に取り組んでから、スタジオに入った。僕は曲を書いたら、あとはまかせる。指示は本当にちょっとだけ。特にこの2人は僕の想像よりもずっと良いものを演奏してくれるからね。ルールはない。時に一人が低音をギターが中音域を弾いていても、常に入れ替わる。音楽がひとつのやり方で固まったりしてほしくない。だから、いつだって僕らはどんな方向に進むかわからないんだ」

多作家のビルはサヴォイからの次作を待たず、ブラジルのヴィニシウス・カントゥアリアとの共演による新作を発表している。彼はビルのインターコンチネンタルズの一員でもある。

「長く一緒に演奏しているけど、2人だけで何かをやるべきだね、とずっと言ってきたんだ。とても楽しかった。2人だけの録音だけど、彼はドラムズやギターを重ねている。『メキシコ人の涙』という題名で、彼はスペイン語で歌詞を書いた。うん、全曲をスペイン語で歌っている…と思うんだけど(笑)」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年05月10日 14:46

更新: 2011年05月11日 12:10

ソース: intoxicate vol.90 (2011年2月20日発行)

interview & text : 五十嵐正